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踊る!ディスコ室町のギター

本(文章)をより速く読むためには(頭のなかで”声に出さずに”読む)

「自分が見ている世界は、他の誰かにとっても同じように見えているのか」。

多くの人が子供時代に考えるように、僕もこのことをよく考えていた。自分が「赤」「青」と思って見ているこの色は、あの子にも同じように見えているんだろうか?

普通ですね。でも気になったんです。

実際は、自分以外の人がどう世界を認知しているかは、誰にもわからない。
もし同僚がトイレでお尻を変なふうに拭いていても、全然気づかない。なぜなら、見ていないからだ。見ていないことについては、知りようがない。
同じように、他人が世界をどう見ているかについては、ブラックボックスのままである。

この問いの延長で僕が気になったのが、文章の読み方だ。

頭のなかで、音になっていない

中学生のころ、アニメ化された小説を読んでいるときに、ふと「自分は頭のなかで、このキャラクターの声で読んでいない」と気づいたのだった。
そういえば、小説だけじゃなくて漫画でもそうかもしれない。「こち亀」を読んでいても、頭のなかで両さんの声(CV:ラサール石井)は聞こえない。
文章を読みながら、風景や人物の動きについては映像イメージが浮かぶ。しかし、特に音声になっているわけではない気がする。

その後もしばらく考えてみたけど、結局僕の結論はこうだった。

文章を読むとき、自分の頭のなかで音声は再生されていない」!

現代文の問題を読むのが速かった

小さい頃から、他の人よりも本を読むのが速かった。
確信したのは高校受験の時期だ。予備校の現代文の時間、問題文を読み終わるのが誰より早かった。問題用紙が配られると、教室じゅうの生徒が問題文を読む。文章を読み終わった生徒は鉛筆を手にとって問題を解き始めるので、傍目にもよくわかるのだ。なんなら、イキって音をたてながら鉛筆を手にしていたかもしれない(ごめんなさい)。

あるとき、それを見ていた友達が、本当に全部読んでるのか?と声をかけてきた。
なにかテクニック(ナナメ読みとか)があるんじゃないか、という疑問を持ったらしい。

しかし自分は、はじめから終わりまで全部読んでいるし、なにか特別なことしてるわけじゃなかった。

そうやって話しているときに、ふと”頭のなかの声”を思い出した。


もしかしてみんな、声に出していないだけで、”音読”しているんじゃないか?


聞いてみると、その場にいた友人のほとんどが「頭のなかで音読」している、と言い出した。
世の中には、頭のなかで「音読」している人がいる!しかも、どうやらそっちのほうが多数派らしい…。

自分としては、けっこう衝撃的だった。このときは、そうでない自分は受験に有利かも…くらいに思っていたけど。


その後、大学受験は概ね成功して、僕は心理学部心理学科に進学した。
そしてこの謎を解き明かした…と言えればよかったんだけど、実際はサークルやバンドの活動にかまけて授業を疎かにしていた。心理統計法と第二外国語の単位を取ることに必死で、研究とかそんな高尚なことは考えられなかった(もったいない!)。

しかし卒論に取り掛かったとき、「頭のなかの声」について調べたいと思って、論文を探した。
すると、少ないながらも先行研究が見つかった。おお、あるんじゃん!

やっぱり、「頭のなかで声が聞こえる」人は多い

ここからやっと本題です。
自分語りが長かったですね。すみません。

当時まず見つけたのは、以下の記事。はてなブックマークでも話題になっていたみたいですね。
gigazine.net

本などの文章を読む際に、声に出さずに黙読していても頭の中で文章を読み上げる「声」が聞こえる、という人が8割以上を占めていることが調査から明らかになりました。

記事によると、8割以上の人が「頭のなかで文章を読み上げ」ているという。元研究では「英語圏最大のQ&Aサイト『Yahoo Answers』に投稿された質問」を利用したとのことで、調査方法にはやや疑問があるけど、まあ参考として。

8割というのは、自分がまわりに質問したときの感触からいっても、妥当な気がする。もちろん、英語圏と日本語圏で多少違うとは思うけど。

「声が聞こえる」ということは、文字情報を脳内で音声情報に変換して処理しているということだろう。
文字を網膜に写すところまでは同じでも、内容を理解するための過程は、人によって異なるのだ(!)。興奮してきた。

では、どうしたら「音声処理」せずに読めるのか

なんらかの動機があって「本(文章)をより速く読みたい」と思っていて、自分が「頭のなかで文章を読み上げ」ている自覚がある場合、じゃあどうすればいいのか、という話になるだろう。

そんな人に向けた方法論をまとめている研究がある。
www.jstage.jst.go.jp

本研究の目的は,読み手のニーズに合うような,簡易で科学的根拠が明確であり,十分な効果をもたらす速読トレーニングを開発し,その効果を実証することであった.
本研究で実施したトレーニングは,いずれも,1日約5分のトレーニングを1週間行うものであった.視野のトレーニングについては,既に,1週間で約30%の読み速度上昇効果があることが実証されているが,先行研究のトレーニングを改定したところ,読み速度を約50%上昇させることができた.
また,黙読時に頭の中で文章を音声化するという内声化を減少させるトレーニングを追加したところ,読み速度を約60%上昇させることに成功した.(要旨より引用)

要旨によれば、トレーニングによって読み速度は約60%も上昇したという。これはすごいです。同じ時間だけ本を読んだとして、月に5冊読んでいたのが、8冊読めるようになる。研究で追いかけられる期間は限られているだろうから、トレーニングを積めばもっと速くなるかもしれない。

・読み速度に影響を与える「内声化」

この研究では、前述した「頭のなかで文章を読み上げ」る行為に、「内声化」という名前がつけられている。
これこれ!僕が言いたかったのはこれのことです。

文章のすべてを内声化して読む場合,内声化の速さ以上に速く読むことはできない.(中略)すなわち,黙読時に文章のほとんどすべてを内声化するという,音読に近い読み方は非効率的であると推測される.

「内声化」して読む場合、ある意味で肉体的な制約が課せられるんですね。もっと速く読む方法があるぞ、と言っています。

・「内声化」を抑えるためのトレーニン

研究では、「内声化」せずに文章を読むためのトレーニングとして、「構音抑制」が用いられている。
つまり、頭のなかで音読しそうになるのを無理やり妨害しようということだ。

構音抑制群(14名)は,視点矯正トレーニングを行う際に,構音抑制をかけながら文章を読んだ.構音抑制とは,主課題(本研究でいえば文章読解)とは無関係な音声を繰り返し発声する手法であり,ワーキングメモリの音韻ループの機能を妨害するとされている.

構音抑制群は,「1,2,3,1,2,3」と繰り返し発音しながら文章を読むトレーニングを行った.この構音抑制の手法は,森田・齊藤(2012)を踏襲したものである.発音のペースとして,「1,2,3」のまとまりを1秒に1回発音するよう教示した.

(「1,2,3」のペース、けっこう速い。)

第1に,「1,2,3」を正しいペースで発音する練習を行った.
第2に,構音抑制を行いながら読むトレーニングの目的は,頭の中で文章すべてを内声化するという読み方略をとらないようにすることであることを明示した.
第3に,参加者に,構音抑制を行いながら簡単な文章を読ませ,文章のすべてを内声化しなくても読めるという体験をさせた.これらを実施した理由は,文章のすべてを内声化しなければ文章理解ができないという感覚を持っている参加者が多いと考えられたため,また,構音抑制をかけることでどのような読み方への変化を促しているかを参加者に理解させるためであった.

研究でも、内声化によって読んでいる人が多いとみられていた。

それでも要旨にあったとおり、最終的には読み速度が60%アップしている*1。手法については改良の余地があるかもしれないけど、訓練によって「内声化」を使わずに読めるようになることは示されたのだ。

本(文章)を速く読むために、「内声化」せずに読む

以上から、タイトルに挙げた「本(文章)をより速く読むためには」に対する回答は、「頭のなかで”声に出さずに”読む」となる。

頭のなかで声を出している限り、どれだけ速くなったとしても、早口言葉の域を出ないということだ。


なんとなく、本を読むのが「速い」「遅い」という能力差として捉えてしまいがちだけど、実はそもそも情報処理の方法が全然ちがうかも、という話でした。

じゃあどうやって訓練すればいいのか、というところは全然わからないので、上記の論文とかを読んで実践してみてください。

レポートお待ちしております。



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こないだ、Twitterスペースで知り合いと話しているときに、久しぶりにこの話題を思い出した。

そのあとChromeのブックマークに学生時代に作った論文フォルダがあったのを見つけて、久しぶりに読んでみるとおもしろかったので、記事にいたしました。

これを読んで、誰かの読書量頻度がちょっとでも上がったらいいなーと思う。本を読まない社会より、読む社会のほうがなんぼか良いと思っているので。


最近は新書ばかり読んでいたので、新書みたいなタイトルにしてしまった。

次は、「本をたくさん読むためには」みたいな記事も書きたい。

たぶん、とにかく本をいっぱい買え!みたいな内容になると思います。



これは読みたい本です。

*1:実は、視野矯正トレーニングも同時に行った結果。気になる方は論文本文を読んでください