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踊る!ディスコ室町のギター

保坂和志『プレーンソング』

「その人にエサあげるの?」
と言ってきて、なんかその晩の島田は調子がよかった。
保坂和志『プレーンソング』(新潮文庫)P177

『ライティングの哲学』で触れられていたんだったか、千葉雅也が言及していたんだったか、とにかく少し前に『書きあぐねている人のための小説入門』を読んで、保坂和志えらい!!となっていた。

それで小説も読んでみるか、となっていたときに買った氏のデビュー作『プレーンソング』。気が向いて読んでみたらこれがめっちゃおもしろかった。

この小説はストーリーがないというか、なにか重大な事件が起きたり人間関係にイザコザが起こったりするわけではないんだけど、筆致が軽いというか、千葉雅也がいうところの「フリーライティング」に近いのではないかと思うところがある。

中盤まではフツーというか、特に盛り上がりもないような気がして読み進めていたところ、冒頭に引用したあたりから、急に文章が軽くなっていく雰囲気を感じる。物語は234ページで終わるので、引用部分の登場する177ページは終盤といってもいい頃だ。その前後から一気に読み味が軽くなるというか、ノリにノッて書いているのが伝わってくる。ノリにノッている文章を読むのは気持ちいい。ネタバレネタバレうるさい世の中であるが、映画音楽小説その他なんでも、ストーリーのプロットの別に、読んでいる(観ている・聴いている)あいだの心地よさをもっと重要視したほうがいいように思える。

他にも、主人公をはじめとする登場人物がノンキというか、まじめに会社に行かなかったりしているのもいい。なんか昼からのんびり出社していたり、喫茶店で話してから「やっぱり今日は会社いかないことにする」とか言っていて余裕を感じる。そもそも主人公の家に集まっている人たちはあんまり働いていなさそうな感じもするし。逆にいうと今のわれわれは仕事しすぎであることをもっと自覚する必要がある。会議してる場合ではなく、喫茶店で話したり、海に行ったりしたほうがいいし、猫に餌をやったりしたほうがいい。


なにを今さら保坂和志をレビューしているんだ、とお思いかもしれないけど、自分には新鮮な衝撃だった。村上春樹とか読んでる場合じゃなかった(ちょっと言い過ぎ)。

いま読んでいる『考える練習』も面白くて励まされる。テクノロジーに時間を奪われていることについて語るなかで「覚悟の決まった禅僧だって、街の中じゃ修行できないんだよ」って言ってる。その通りやわー。