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踊る!ディスコ室町のギター

モンゴル武者修行の記録② 落馬しても意外と冷静だった

(前回の続き)

 

今さらながら書き始めたモンゴルレポート。2019年7月のモンゴル武者修行ツアーについて書いています。

今回は馬から落ちたりゲルを建てたりと、モンゴルの草原を目一杯満喫した3・4日目について。移動距離も直射日光を浴びていた時間もウォッカを飲んだ量もこの2日間が一番多かった。

遊牧騎馬民族の能力を存分に目の当たりにした2日間だ。

 

 

 

 

◯7月13日(3日目)
朝食の時間ギリギリに起床。前日には感じなかった筋肉痛を全身に感じる。特に膝とお尻が痛い。乗馬は普段使っていない筋肉を使うのだな。

みんなでよろよろとテーブルについて朝食を食べ終わりかけていると、羊の内臓が振る舞われた。一瞬ひるんだが、食べてみると全然イケる。やはり草原の香りだ。筋肉を回復できるようタンパク質を摂ろうと思い少し多めにいただいた。

 

朝食後は午前の乗馬訓練。前日と同じ馬で、今日は最初から曳き馬なし!

相変わらず快晴のなか、順調に進む。案内してくれている遊牧民たちは少し退屈だったらしく、「おれあそこで何か買ってくるわ!」みたいなことを言ったかと思うと馬を駆って遠くに見える町の方までいってしまった。しばらくして帰ってきたら片手にコカコーラの2Lボトルを持っており、馬上で回し飲みしていて楽しげだ。

彼らは馬上でコーラを飲むし、Facebookをチェックする(草原には遮るものがないので都市から電波が届く)し、電話もする。ながら運転だ。ちなみにiPhoneの着信音は「Shape of You」。エドシーランの人気は草原にも及んでいる。

 

だんだんと慣れてきて良い気分で進んでいたが、油断もあった。馬が何かに驚いてしまったのか、急に全速力で走り出してしまいあっという間に振り落とされてしまったのだ。落馬だ!

猛スピードで草原に叩きつけられてゴロゴロと転がったが、ピザ配達のバイト中に原付ですっ転んだ経験があるので意外と冷静に自分の状態を確認する。腕よし、足よし。こういった事態に備えて手袋をしていたので手指も大丈夫。アスファルトに肘を擦り下ろされたときに比べれば外傷は少ない。

起き上がって呆然としていると、遊牧民のお兄さんが僕のサングラスやiPhoneを拾い集めてくれていた。iPhoneは画面がバキバキになっているがこれは元々のもの。お兄さんにお礼を言う。バイルララー(ありがとう)。別のお兄さんが馬を駆って僕の馬を捕まえにいってくれている。

わりとうまく受け身が取れたつもりだったが、打ち身のようで腰がかなり痛む。

馬が捕まえられて帰ってきたので再度騎乗し、Uターンする。帰り道は現地のお兄さんに手綱を曳かれてしょんぼりと帰還。痛い思いをしたが、帰ってから「落馬は幸運を呼び寄せると言われているんだよ」と慰められた。悪いものが落ちる、という解釈らしい。

 

この日は晩からゲルキャンプをするということで、昼食(チャーハンだった)の後はキャンプ地に向けて出発。移動はもちろん馬だ。振り落とされた直後なので恐る恐る乗ったが、馬はご機嫌な様子。キャンプの道具やゲルはトラックで運ぶ。

草原にできたわずかな轍に沿って進む。雨が少ない高原では、草を踏み荒らしてしまうとなかなか復活しない。家畜の餌となる有限資源なのでみんなある程度同じ道を通ることで草を守っているそうだ。

道中では自動車が立ち往生しているが、ボンネットを開けて自分たちで修理している様子。草原にJAFは来ない。がんばれよーと挨拶をして進む。

しばらく歩くと、このツアーで初めて「走ってよし!」の号令がかけられた。チョウ、チョウ!と掛け声をして平手で肩ムチを入れると、馬はその合図に合わせて頭を沈める。伊藤さんの馬と併せる形になり、立ち乗りで馬のタテガミを掴んで首の動きに合わせて追い立てるとさらに速度を上げる。いつか思いっきり馬を走らせてみたいという夢が叶った瞬間だ!

思いっきり駆けることができて鞍上は満足しているのだが、馬は結構寂しがり屋のようで、キャラバンから離れるとスピードを落として振り向いてしまう。放っておくとUターンしてしまいそうで、とりあえずその場で小回りにぐるぐると歩かせた。レース後に向正面でUターンするジョッキーのような気分。

ダッシュの甲斐もあり予定より早くキャンプ地に到達。白樺の森だ。草原にも丘の影になるような場所にはわずかながら森がある。馬を労い、木に繋ぐ。

 

少しの休憩のあと、トラックから部材を下ろしてゲルを組み立てる。ゲルの特徴は全パーツに力が分散されることだ。屋根のハリが1本折れた程度では崩れず、大黒柱が建物全体を支えている日本とは違う。どこか示唆的だ。力を分散させる優れた様は、武者修行メンバーYさんによって「ゲルみ」と名付けられた。

小一時間もかからずにゲルが建つ。こんなに手軽に組み立てられる物件に住んでいる人々がいるのだと思うと、日本で新築マンションなんかをありがたがったりしているのが不思議に思えてくる。

 

ツーリストキャンプのオーナーであるバギーさんからの挨拶(日本に帰ってもモンゴルを思い出してくれ、そのためにいい写真をいっぱい撮ってくれ!とのことだった)のあと、みんなで夕食。メニューは干し肉と米のおじや。肉の出汁が出ていてうまい。

食後はモンゴルの遊びを教えてもらって実践。だいたいがコンタクトのある遊びで肉弾戦だ。円になってグルグル走るやつ、はないちもんめのアグレッシブ版みたいなやつ、白い骨(草原に落ちていたものだ)を使ったラグビーみたいななやつ。とにかく取っ組み合いに発展してしまうゲームが多かったので全員に少しずつ生傷ができた。

モンゴル相撲では、普通にやっても瞬殺されるのは目に見えているので一番弱いヤツを出してくれと要求して15歳のアノンくんと一戦交える。しかしやっぱり余裕で投げ飛ばされて鼻から出血した。アノンくんがかなり心配してくれるので、鼻血は乾燥のせいで前日から出ていたので心配しないでくれ、と通訳のドギーさんを通じて伝えてもらう。組み合うと不思議な仲間意識ができた。

 

暗くなってから(緯度が高いので夏の日没は21時以降だ)はキャンプファイヤーを焚いて踊り狂うモンゴル人&日本人。ゲルと一緒にスピーカーも運び込まれており、草原にEDMを響かせている。即席レイブだ。

爆音がひと段落したあとは、日本の曲とモンゴルの歌を交互に披露しよう、ということになる。モンゴルの歌はどれも「草原を吹き渡る風を思い出しながら聴いてください」「動物たちを思って聴いてください」と前置きがあり、言葉はわからなくても情景が伝わってくる。

日本サイドもみんなで歌える曲を探すが、君が代(大相撲の中継を見ているのでモンゴル人もみんな知っている)くらいしか思い付かず困った。苦し紛れにWe Will Rock Youボヘミアンラプソディが流行っていた時期だ)を歌ったりしてみたが、日本はみんなで歌えるいい感じの歌が少ないという問題がある。卒業式で歌う曲とかはあっても、楽しい雰囲気で世代を横断して一緒に歌えるものはかなり少ないんじゃないかと思う。

全員で歌えるものがないので、酔いに任せて、「スーダラ節」と「さくら(森山直太朗、なぜかモンゴルで流行したらしい)」をひとりで歌った。スーダラ節を歌う前に「日本の酔っ払いの歌です」と前置きをすると、モンゴルサイドから「モンゴルにも酔っ払いの歌が必要だ」とのコメント。

 

夕食以降はどんどんお酒が振舞われた。チンギス・ハーンの名を冠したウォッカだ。注いでもらったら3杯連続で飲み干すという凶悪なマナーがある。手加減されつつも飲みやすいのでグイと飲んでしまい、かなり酔っぱらってしまった。

宴は続いているが、体力が限界を迎えたので早めにダウンしてゲルにもぐりこみ気絶。夜中少し目がさめると、雨がゲルの屋根に当たる音が聞こえる。

 

 

 

◯7月14日(4日目)
前日のウォッカが効いており、浅い眠りから4時過ぎに起床。既に外は薄明るい。

10人以上が詰め込まれたギュウギュウ詰めのゲルから外に出て朝日を待つが、曇っていてよく見えない。周りでは前足を結ばれて遠くに行けないようにされている馬たちが草を食んでおり、ときおりブヒヒーンといなないている。とりあえずiPhoneのボイスメモで録音した。

近くの小山に登ってみるとトーテム(祠)があったので周りを3回まわって石を投げる。いいことがあるというおまじないだそうだ。遠くに遊牧民のゲルと羊の群れが見える。

ひと通り辺りをウロウロしてみたあと、森の中で用を足す。開放感がマックスだ。トイレ紙は意外と分解されにくいと聞いていたので焼却。

 

二度寝のあと起き出すと、朝食が振る舞われていた。メニューは揚げパンにソーセージを挟んだもので、羊の尾脂(羊の尻尾部分の脂肪分)で揚げたらしい。食品会社勤務のNさんは尾脂に強く反応している。たしかに珍しい油だ。味はアメリカンドッグみたいでうまいが、コンビニやファストフードの資本主義油とは違って優しい味だ。

食べ終わると、早速馬に跨り帰路につく。

 

帰りの道中、Yさんが乗る馬はかなり気性が荒く、他馬が接近するとすぐに蹴ろうとする。神戸在住のYさんにちなんで「姫路のヤンキー」と異名が付いた。車間距離をとりながら進む。まるで黒塗りの高級車を避けるよう。

みんなで注意していたが、やっぱりヤンキーの脚癖は悪くて道中ついにMさんの馬が蹴られてしまった。馬は暴走し、Mさんを振り落としてかなり遠くまで走り去っていく。Mさんも落馬の拍子に腰を打ったようでつらそうにしている。遊牧民も馬を捕まえるのに苦労していたが、猛スピードで併走しながらカラ馬の手綱をおさえる姿が勇ましい。

往路のようには走らなかったが、早く帰りたくてしかたない馬たちの歩行速度が上がっていたらしく、トラブルもあったが予定より早めに帰着。

 

しばらく休憩のあと、みんなでモンゴルの家庭料理を習う。ボーズという小籠包みたいなものだ。普段から食べるが、正月なんかは大量に作りまくって来客に振舞うらしい。おかみさん(というのが正しいかわからないけど)に合格、不合格を判断してもらいながらワイワイと作りまくる。だんだんと合格品を生産できるようになった。

 

大量につくったボーズをみんなで食べ尽くしたあと、羊の解体を見学。

遊牧民の男子は15歳くらいになると一人で羊を解体できるようになる。羊の手足を抑えてナイフで腹に20cmくらいの切り込みをいれると、グイっと突っ込んだ手で動脈をちぎって失血死させる。羊はゆっくりと意識を失った。

そこからは仕事が早く、さっきまでメエメエ鳴いていた羊があっという間に捌かれていく。もちろん血や内臓を取り出す様子も目撃したが、不思議とグロテスクでなく、むしろ自然な光景に見える。実演してくれているお兄さんもニコニコと作業を進める。みるみるうちに、見たことのあるようなブロック肉へと変わっていった。

解体した羊は、肉や羊毛はもちろん、内臓や血もボウルに集めて全て利用され、人間が食べられない部分は犬に与えていた。貴重な財産なので、余すことなく使うのだ。

 

夕方からはバギーさん主催のミニナーダムが開かれた。国のナーダムと同じく、相撲・競馬・弓射の3競技を開催。

手伝いや見物に来てくれたちびっこにジュースとお菓子を振る舞っていると、日本人チームには馬乳酒が振る舞われた。カルピスが着想を得たというやつだ。思ったよりかなり酸味が強い!遊牧民はこれを水のように飲み栄養を摂取するらしい。どんぶり一杯飲み干す。

 

第一競技はモンゴル相撲。日本人男子とモンゴル人軍団が参加する。伝統衣装で参加することになり少し恥ずかしい(写真参照)。僕の対戦相手は前日に引き続き15歳アノンくんだ。何とか脚を掴んで必死で押すが、結局後ろ向きに投げ飛ばされ敗退。伊藤さんは細身だが1勝を勝ち取っており流石の経験を感じる。Mさんも善戦していたが残念ながら1回戦敗退。

早々に自分の出番が終わったので観戦していたが、ちびっ子どうしの取組も見応えがある。小学生くらいの子も色んな技を身につけており、体格差を跳ね返したりしている。遊牧民うしの勝戦はさらにハイレベルで、そりゃ角界もスカウトに来るわな…と思った。格ゲーのようなコンボ技も決まっていてエキサイティングだ。組み合う前に「鷹の舞」を踊る儀式もおもしろい。

第二競技の競馬には現地のちびっ子(〜小学校高学年くらい?)と遊牧民たちが騎乗。5kmくらいのコースで、ゴールはアバウトにこのへん、という感じ。日本ダービー2回分の距離だが、モンゴル的には短距離戦らしい。レース前は輪乗りをしながら歌を歌って馬に気合をいれている。

遠くの方でレースがスタートし、土煙をあげながら先頭集団が帰ってくる。5kmも走ってきたが、1,2着はちびっこ騎手同士のマッチレースとなり、ゴール間近で見ていると手に汗握るものがあった。次に来たときはこのレースに参加することを目標に馬術習得に励もうと決意。伊藤さんは最高で3着に入ったことがあるらしい。

第三競技の弓射は日本人のみ。ひとり1回ずつ練習したあと、オオカミの毛皮を的にして2本ずつ矢を放っていく。意外とカンがよかったのか、毛皮を貫くことができた。見事に優勝を果たしてしまって良い気分だ。

モンゴル帝国が世界最大の帝国として繁栄した時代、格闘技・馬術・弓を高度に扱う遊牧民たちの戦闘力は相当に高く、勢力拡大の原動力となった。史実としては何となく知っていたことだが、実際に遊牧民たちの身体能力や運動神経を目の当たりにしてみると完全に納得できる強さである。

 

全種目終了後、各種目の上位者にメダルと賞金進呈。競馬のメダルは馬の耳にかける。全員にメダルが行きわたると、さっき羊の解体を見せてくれたビャンバ君が馬上から口上を披露してくれた。

僕も弓射の優勝メダルと優勝証明書をバギーさんからいただく。なにかで優勝してメダルをもらうのは初めてで嬉しい。

 

夕食にさっきの羊をいただいたあとは伝統芸能・歌・馬頭琴のミニコンサート。馬頭琴は高校生のムギくん・アノンくんの演奏。すごい腕前だ。バッチリ着込んだ民族衣装も似合っている。彼らは乗馬も達者だし学校ではパワーリフティングもしているらしく、そのうえ馬頭琴も高校生代表として韓国遠征を果たすなどしており、おそろしいマルチプレイヤーだ。

夜はカラオケ大会。なんとカラオケ用の防音ゲルがあった。韓国製カラオケマシンでモンゴル人チームと交互に歌ってみるが、日本人サイドのほとんどは疲れてすぐ寝に帰ってしまう。ガイドのドギーちゃんの気遣いもあってしばらく数名で粘るが、夜中1:30ごろにさすがに終了、就寝。

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

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