“彗星”冒頭の「そして時は2020/全力疾走してきたよね」という部分のフロウとデリバリーがあまりに不自然かつ強張っているのがあまりに不可解かつ怖くて、彼のアルバムはまだ聴いてません。むしろ柴くんが彼を取材したことについての維正ちゃんの所感が聞きたく。2019年は宇野維正の年だったわけだし。 https://t.co/WViuxtlEOZ
— 田中宗一郎 (@soichiro_tanaka) November 19, 2019
在宅勤務でぼんやり仕事をしていると、偶然Spotifyから小沢健二の「彗星」が流れて、急に胸ぐらを掴まれたような気分になった。
オルガンとストリングスをバックに歌われる言葉の一行目、「そして時は2020/全力疾走してきたよね」。
サウンドとともに”全力疾走”という単語も00年代Jポップ的なさわやかさで、その後も”奇跡” "青春"などの言葉が登場する。曲がリリースされた頃、ぼんやり聴いているだけでは(なんか前向きなこと歌ってるぽいな…)くらいにしか思っていなかった。
しかし、Spotifyで配信されているポッドキャスト「三原勇希×田中宗一郎 POP LIFE: The Podcast」の第35回、「インターネット大好き!大嫌い!Guests:柴那典&宇野維正」で田中宗一郎の解釈を聞いてからは、この曲をうまく聴けなくなった。
流れてくるたびにゾワっとしてしまい、冒頭で書いたような気分になる。
もう半年も前に配信された回だが、「彗星」を聴くたびに思い出して聞き直している。
印象的な部分を紹介したい。
(以下、三原勇希×田中宗一郎 POP LIFE: The Podcast #035「インターネット大好き!大嫌い!Guests:柴那典&宇野維正」より書き起こし)
(田中)俺がこの前ツイートした、”彗星”の最初のフロウの”強張り”。最初の歌詞、「そして時は2020/全力疾走してきたよね」。
(宇野)あれってすごい言葉ですよ!普通、オザケンをあんまり知らない人にとっては、全員ツッコむところですよ。だって、「お前、ほとんどいなかったやんけ!」って。「全力疾走??」みたいな。
(田中)なるほど。
(宇野)だけどあれは、聞き手に対して「全力疾走してきたよね」と言ってると同時に、自分に対しても言ってるんですよ。
(三原)だろうなと思いました。
(宇野)その言葉の重みに、私とかは打ちのめされるわけですよ。ひゃー言っちゃった!って。(オザケンが)全力疾走してきたのは、僕は知ってる。けど、それを言わないのがある種の美学かと思いきや。
(三原)これまでは言わなかったんですか?
(宇野)これまではほとんど表現していなかった。だけど、アルバムがこのフレーズで始まるってことは、これは全部言うアルバムなんだっていう心構えができる。だからこわばりますよそりゃ。
(田中)俺はあの一行目をあのフロウで歌われるとどう聞こえたかっていうと。「時は2020、俺もお前もダラダラやってきたから、日本も地球もこんなことになった」って聞こえるんですよ。
(宇野)うーんなるほどね。そのニュアンスも裏にあって、そこまで間違いじゃないかもしれないけどね。けど彼はダラダラはしてないですよ。
(田中)だから主には、聞き手に向けられたもの、パフォーマティブな言葉の使い方。「あなたのことなんて大っ嫌いだ!」っていうのは、大好きだ!相手してください、こちらを向いてくださいってことじゃないですか。それと同じように、「全力疾走してきたよね」っていうのは、「お前してこなかっただろう」って。でもそれをスムースには歌えないからこそこわばって。だから、おれはその瞬間にSpotifyを消しました。
(一同笑い)
(田中)だけど実際、これがもしそうだとしたら、オザケンの言うとおりだもん。彼がいなかった10何年間、誰がしっかり頑張ったの?って話だからね。
(三原)そのあとの歌詞もすごかったですよね。「2000年代を嘘が覆い/イメージの偽装が横行する/みんな一緒に騙される 笑」
(柴) あれ、「笑え」って言ってるんですよ。
(宇野)あれを「笑」だけにしてるのも、ゾッとするところですよね。まあみなさんに言いたいのは、(オザケンを)あんま舐めない方がいいですよってことですよ(笑)
この会話を踏まえて曲を聴き直すと、「彗星」という曲はかなり印象が変わる。
そしてやっぱり胸ぐらを掴まれてしまうのは、「全力疾走してきたよね」と言われて、そうでない自分を思い出してしまうからだ。
ちなみに小沢健二はこの曲をライブで観客に歌わせて(全力で!)、それを撮影可にしている。
「してこなかっただろう」 という解釈でこの映像を見るとめちゃくちゃこわい。
歌詞を素直に受け取るなら、会場が一体となって盛り上がっているいいライブだ。 ”強張り”が思い過ごしかとさえ思えるが…。
この曲の他にも「流動体について」の歌詞に登場する”間違い”ってなんなんだ、という引っ掛かりがあったりもするし、とにかくこのポッドキャストを聞いてしまってから「So Kakkoii 宇宙」は自分にとって要注意アルバムになってしまった。
聞いていると要注意アルバムができてしまうようなポッドキャストであるPOP LIFE: The Podcastであるが、毎回めっちゃおもしろい。
最近は宇野維正の登場も多くて嬉しい。ツイッターで炎上しているところしか知らなかったけど、タナソーとの絡みを聞いていて可愛い人なんだなと思った。
「小沢健二の帰還」も読んでみようと思う。
(5月21日追記)
「小沢健二の帰還」、読んだら「So kakkoii宇宙」にちゃんと向き合えそうな気持ちになった!
この記事で書いたような違和感のようなものもかなり小さくなって、「彗星」「流動体について」は今まで以上にめちゃくちゃ好きになりました。
宇野維正えらい!
「彗星」の怒涛の後半部、マツケンサンバならぬオザケンサンバだな。ole!
— 宇野維正 (@uno_kore) October 10, 2019