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踊る!ディスコ室町のギター

インターネットから消えたJohn Gastro

 

John Gastro氏がインターネット上から姿を消して1年半が経過した。

 

 

John Gastroは、宅録のオリジナル楽曲やカバーをインターネット上にアップしていた「songwriter」。

2013〜2014年頃*1から楽曲を発表し始め、ネット上で話題になった。

当時SoundCloudを自動再生で垂れ流しているときにたまたま発見して、これはすごいものを見つけた!と興奮したのを覚えている。

 

かなり精力的にYouTubeSoundCloudに楽曲をアップロードしていたが*2、2018年の終わり頃に突然ツイッターの更新が止まったかと思うと、公開されていた楽曲も全て削除・非公開になってしまったのだった。

現在、彼が使っていたYouTubeアカウントには無音のテザー動画だけが残されている。

 

名前以外のプロフィールは一切公表されず、渋谷をときどき眺めている*3ということ以外については謎に包まれていた。

そのため、本人と関係なく「John Gastro展」が開催されたこともある*4

 

 

 

全て非公開になってしまったので1曲ずつ紹介できないのが残念だが、楽曲は丁寧なアンサンブルと多重録音のボーカルが心地よい。個人的には、ノートPCのスピーカーで再生すると妙に曲の雰囲気が生きるサウンドになるような気がする。

「週末」「液晶」「時間」「生活」などのオリジナル曲はいずれも(ソングライター自身の匿名性とは裏腹に)個人の日常を切り取ったような歌詞で、共感や納得感のあるものだった。

 

なお、一部の楽曲は現在でも確認することができる*5

そのひとつが、PUNPEEとコラボした宇多田ヒカルのカバーTraveling (PJG "Just Do It" 90s Rework) だ。

DOMMUNEの配信ライブ「宇多田ヒカルのうた」のアーカイブに、PUNPEEのパフォーマンスと共に収録されている。

 

 

T.R.E.A.M.のアカウントには「Local Distance 2016」が残されている。

いつ聴いても「今日日 斬新なスタイルはない」でハッとするし、「本当にそうならいいのにね」にドキッとする。

 

 

また、ツイッターには「自分が聴くよう」に作ったというShape of Youのカバー(の「抜粋」)が残されている。

  

 

たぶんこのツイートを見た当時は「自分が聴くよう」に音楽を作ることについて何も思わなかったのだが、今改めて考えると、J/Gの作品を特徴付けていたのはこの部分であるように思う。

宇多田ヒカルがFantômeをリリースした直後、ウェブメディアFNMNLへ寄稿した文章には、「自分が聴くよう」に音楽をつくることが彼にとっては”生活の一部”であることが記されている*6

自分は宇多田ヒカルと同じ年に生まれ、彼女と同じように物心がついたころからずっと音楽を作ってきた。

しかし、自分は彼女と違って、書き上げた曲を「原則的に」一切発表せず、ただ「自分が聞くためだけ」に作ってきた。自分にとって音楽を作ることは仕事でもなければ、かといって趣味とも少し違う、例えるなら「日記を書く」ような、生活の一部でずっとあり続けてきた。

fnmnl.tv

ちなみに、文芸誌「新潮」に寄稿された文章「詩の法外」にも同様のことが書かれている*7

 

丁寧に作り込んであり、内省的で、自分の気分・意思を確認するような、まさに日記のような雰囲気が彼の曲の特徴だったのだ。今更ながら気がついた。

 

 

運良くSoundCloudからダウンロードしていた4曲(「週末」「液晶」「時間」 とカバーの「ああエキセントリック少年ボウイ」)を除いて彼の楽曲を聴くことができなくなってしまったことは本当に残念だ。

が、彼にとっては一時的に公開していた”日記”を閉じただけなのかもしれない、とも思う。

 

・・・・・・・ 

 

急にJ/Gのことを思い出したのは、彼の曲「週末」が聴きたくなったからだ。

ステイホームを命じられた長い連休を前にして、この曲が必要だと思ったのだ。

 

Weekend 予定は無い それが今の僕らのスタイル

Feeling 悪くは無い それが今の僕らのライフ

でも急になんだか不安になって「洒落になんないよ!」

そんなことを思いながら 土日が過ぎてく

ー(週末/John Gastro)

 

 

 

 

*8

 

*1:代表曲「週末」が発表されたのが2014年頃(SoundCloudからは削除されてしまったので、Twitter検索から推定)。

*2:正確な数はわからないけど、SoundCloudの投稿曲は数十曲になっていたと思う

*3:SoundCloudのポストのなかに、WOW WAR TONIGHTのカバーもあり、度々歌詞を引用していた。「流れる景色を必ず毎晩見ている」。

*4:

John Gastro on Twitter: "#JohnGastro展 、想像以上に網羅されてるし、会期中日々展示物が更新されてるぽい。 https://t.co/2zrcmAwIfU"  John Gastro展 2016

*5:以下に紹介するもの以外に無断転載であろうものはいくつか見つかるが、紹介しないでおく

*6:「Fantôme」の意味・語源を掘り下げる素晴らしい文章も読んで欲しい(なお、記事中のリンクが切れているがURLの末尾を変更すれば前ページも読める)。

*7:音楽だけでなく、彼が書く文章もとても好きだった

*8:音楽リスナーとしてもかなりの”早耳”で、Tom MischやElephant Gym、Samm Henshaw、ラブリーサマーちゃんなんかは、どれも人気が爆発するよりずっと前に彼が紹介していた。彼が選んだSpotifyプレイリストとかがあったらめっちゃ聴きたい。