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踊る!ディスコ室町のギター

だまされない日記(『Perfect Days』)

レイトショーで『Perfect Days』を見た。

トイレ掃除人(役所広司)の規則正しいマジメな生活がエモく表現されていて、こういう暮らしも美しいものだよな……と思わされる。常に光と影を探す、写真を撮る人の視線がカメラワークに反映されているようで、画面が常にエモい。主人公が暮らす長屋の設備は私が今住んでいる借家や学生時代に住んでいた長屋とそっくりで(こういう給湯器使ってるしそこで歯磨きしてた!)、毎日じゃないけど銭湯にも行くし、ウンウン半分くらいオレの生活やん、そういう生活の美しさを撮ってくれてありがとう……と思いながら見た。

しかし同時になんとなく違和感があるような気もして、まずなんでこんな変わったトイレしか出てこねえのか。渋谷にだって汚い公衆トイレはいっぱいあるだろうに、映画にはピカピカのオシャレトイレしか出てこない。なんなんだこのトイレたちは。*1

それで家に帰ってから制作背景を確認したら、この映画は「誰もが快適に使用できる公共トイレを設置するプロジェクトプロジェクト(THE TOKYO TOILET)」の一環として作られたんだな。東京オリンピックを機にスタートしたプロジェクトで、オーナーはユニクロ取締役の柳井康治であるらしい。この映画のプロデューサーも彼である。だからやたらおしゃれなトイレばっかり出てきたのか。なんだこのプロジェクトは。

プロジェクトのホームページを見たら「優れたデザイン・クリエイティブの力で社会課題の解決に挑戦します」とあるが、それってなんなんだ。劇中で外国人と思しき女性がガラス張りのトイレの使い方がわからず困っているところに役所広司が(こうやって使うんですよ……)と示してあげるシーンがあったが、そもそも普通のトイレだったら使い方がわからなくて困ることもないはずである。トイレの使い方が初見ではわからないって、デザインとしてNGなのでは。一刻を争う瞬間に使い方がわからないのは致命的なのですが。巨匠建築家に依頼するカネがあったら、普通のきれいなトイレをいっぱいつくってほしい。*2

そんでこの映画のキャッチコピーは「こんなふうに生きていけたなら」だが、ユニクロの息子にそんなこと言われても困る。じゃあお前がトイレ掃除して風呂なし長屋に住めよっていう話である。あやうく「そういう生活もいいよね」感にほだされるところだったが、おれはだまされないぞ。なめんなよボケが!

*1:あと、役所広司がトイレの床に落ちているゴミを素手で拾ったりして、その手でサンドイッチを食べだしたりするのでギョッとする。マメで潔癖な描写もあるわりに衛生観念どうなってんねんと思う場面が多くて、その謎は結局回収されずに終幕したように見える。どういうこと?

*2:途中で清掃員がひとり飛んで、そのシフトの穴埋めのためにいきなり長時間勤務が発生するシーンもあったが、清掃員の労働環境よりトイレ清掃回数の維持が優先ということでよろしいか? あと主人公のクルマには清掃用具がギッシリ詰まっているがあのクルマは会社支給なのか???