songdelay

踊る!ディスコ室町のギター

ハモリは分身した人格

aikoの『花火』を聴いていると*1、サビの歌メロについているハモリが下にしかないんだなーと思った。

歌いだしからずっとプレーンなボーカルが続いて、サビだけ下ハモリがついている。上ハモリがつくよりも冷静な感じがするし、なにか諦念みたいなものも感じさせる(曲調は明るいけど失恋ソングである)。ハモリのパートを歌ってみるとなるほど「ぶら下がって」いる感じもする。

今まで漠然と聴いていたけど、ハモリってメインの歌から分裂したもうひとつの人格なのかもしれん。

それで意識して平成のヒット曲を聴いてみると、同じくらいの時代に活躍していたグループはけっこう「サビで下ハモ」を多用していて、スピッツはその代表格である。『チェリー』『ロビンソン』『空も飛べるはず』『楓』、全部サビで下ハモリがついている。スピッツの曲はからはいつも「なんか死にそう感」をうっすら感じていたが、このハモリこそがアンニュイな性格を響かせているのであった。

最近でいうとあいみょん(『マリーゴールド』など)も「下ハモリ」を使っているな〜とか、逆に槇原敬之は上でハモっている曲が多いな〜とか思いながら90年代〜00年代のJ-POPを聴き漁っていると、なんと上下を移動するハモリもあった。YUI『CHE.R.RY』である。

曲のはじめからサビの前半まではずっとメインパートより上にハモリがついていて、サビの最後「♪星の夜願い込めて〜」だけ下ハモリになっている。うわずってしまうようなドキドキ感と、メール送信ボタンを押す前のやっぱ無理かも感、そしてボタンを押す覚悟が決まってからはハモリなし。そういう表現になっていたとは気がついていなかった。ていうかこの曲、携帯メール全盛の時代を思い出して懐かしいっすね。

*1:土井善晴さんのことを考えていてふと思い出したのがaikoの『花火』で、サビ前のハイライト的に登場する「疲れてるんならやめれば?」「一度や二度は転んで見れば?」はわりと土井善晴先生のメッセージと同じなのではないかと思ったのだ。疲れてるんなら一汁三菜とかいって無理するのはやめなはれ。おうちの料理で完璧を目指すのはやめなはれ。 これを土井善晴aiko説として膨らませてみようと思ったものの、それはあまりうまくいきませんでした!

今週読んだ本

もう最近は読む本読む本おもしろくてしょうがない。とりあえず直近1週間はこの3冊。


◯言葉と生きる日記(多和田葉子
古賀及子さんの選書フェアで出会って即買いしたら名著だった。
「早起きは三文の『得』ではなく『徳』」「ドイツ語では『すべる』が縁起のいい言葉」「世界的に見れば主語を省略できる言語の方が圧倒的に多い」など、知らなかったことが毎ページに書かれていて、へーへーいいながら読んだ。こう書くと豆知識本のように見えてしまうかもしれないけどそんなことはなくて、著者と一緒に気づいていけるような感覚が心地よい。そのあたりは日記という形式の妙というか、読みやすさ親しみやすさがあるところだ。


◯喫茶店ディスクール(オオヤミノル)
京都のコーヒー焙煎家・オオヤミノル氏。以前『珈琲の建設』は読んだことがあったけど、最近ふとしたことで名前を思い出してみると、誠光社から新しい本が出ていた。
帯にも使われている「契約」という言葉がよく出てくる。たとえばコーヒーへのこだわりを標榜しているカフェでエチオピア・ブラジル・インドの豆を選べるとして、その味のちがいが客に伝わらなかったらそれは契約違反だよね、みたいな話。「店は客と契約するんだよ。でも客は店と契約するわけじゃない」。このへんは読んでいて背筋が伸びた。
茶店をはじめとする規模の小さい商売についても言及が多くて「資金調達」という章まである。そこではいきなり「資金を作るために佐川急便で頑張ってバイトするなら、同じくらいの頑張って出資者を探せ」と言っていて、たしかになと思った。自分のまわりにも最近カレー屋をオープンしようとしている友達がいて、もし彼が困ってたら出資したいなとか考えてみている(本人! 読んでたら連絡ください)。


◯珈琲の建設(オオヤミノル)
何年か前に読んだはずだったけど再読。コーヒーの話もおもしろいけど、改めて読んでいるとサービスに関する話が印象的だった。「味なんか三流でもサービスがいいところを選ぶ」とか言っている。なるほどな〜とか思いながら近所でそれぞれ老舗のお好み焼き屋と中華屋に初めて入ってみたら、どっちに行ったときにも注文時に「ビールは料理と一緒にお持ちしますか」と聞かれた。今まであんまり気にしてなかったけど、庶民的な店でのサービスってこういうことかもしれん。
コーヒーをドリップすると、まず①ピュアなコーヒー液が抽出されて、そのあと②エグ味の原因になる出がらしがでて、最後に③無害な出がらしが出てくるといっている。こないだ久しぶりに行ったKAFE工船で出てきたのは①と③だったのか。前回7年前に行ったときも今回もこの本を読んでから行ったはずだけど、全然気づいていなかった。
本もコーヒーも背筋の伸びる味。この2冊は語り起こしのような形で作っていると思うけど、それにしても誠光社堀部さんすごい仕事だなあ。
songdelay.hatenablog.com

コゲてるものはうまい

うまいバナナトースト

京都の名物コーヒー店、KAFE工船に行った。チェンマイに行ってから自分の中でコーヒーブームが再燃して、タイ現地の農家から買った生豆を家で焙煎しまくっているが、たまにはプロの豆も体験したくなったのである。

注文したのはパプアニューギニアのミディアム(中ヤキ)と、バナナトースト。コーヒーはこってり・あっさりを選べて、同じ量の豆からの抽出でこってりだと90cc、あっさりだと180ccが提供される。たしか前回は大学卒業間近に行ったので7年ぶりの訪問であるが、前もこんなシステムだったっけ? と思う。7年前のことが全く思い出せない。

こってりを注文すると、コーヒーのカップと別で「濃度調整用のコーヒー」(それだけで飲んでみたら、コーヒーの香りがついたお湯という感じだった)が入った急須も渡された。濃すぎたらこれで調整してください、とのこと。実際、ちょっと濃いなと感じたのですこし薄めて飲んでみるとちょうどよくなった。うまい。家で淹れてるコーヒーも濃いなと思うことがあったけど、薄めてもいいのか。薄めて飲むというのはもうエスプレッソに近い。ドリップなのにすごいことだ。

バナナトーストもめちゃくちゃうまかった。トースターから出したあとにバーナーでカラメルが焦がしてあって、まだらのカリカリ層が強烈に甘い。そしてバナナもそれに負けじと甘い。添えられたサワークリームをつけると後味が爽やかになって全然飽きない。濃いコーヒーの苦みも際立つ。いやー久しぶりに食べ物で感動した。

コーヒーも焦がしの技だし、キャラメリゼもまた焦がしを味わうものであった。ちょうどいい焦げってなんでこんなにうまいと感じるんだろうなあ。焚き火で肉を焼いてた時代に、焦げてるくらいのが安全で、それの名残だったりするんだろうか。それがコーヒーとかキャラメリゼにも当てはまるのかはわからないけど。

余談だけど焦げといえば、今日公開されたデイリーポータルZの記事に焦げたタオルを登場させていた。食べ物じゃなくて物体が焦げている写真を見ると本能的に危機を感じるのか、一部読者から「危険である」という趣旨のご意見をいただいていますが、大人なんだから大丈夫であります。
dailyportalz.jp

ミン・ヒジンさんえらい

www.youtube.com

他の子たちが学校に通っている時 彼女たちは異なる経験をします
私はデビュー前に「私と一緒に勉強していくんだよ」と声を掛けました
(アーティストとの)標準的な基本契約期間は7年
高校3年と大学4年を合わせると7年間です
だから「私と一緒に学校に通おう」と伝えました
一緒に働くスタッフはみんな良い先生だし 学校に通っていても会えないプロフェッショナルばかりだと
【NewJeans誕生秘話】ミン・ヒジン「固定概念を壊したい」|プロデュース術に迫る独占インタビュー|NHKスペシャル - YouTube 13:50~)


NHKによるミン・ヒジン(NewJeansのプロデューサー)のインタビュー。

「ジャンルではなく『新しさ』を軸にしたい」「本人たちがとことん楽しまないとバイブスは生まれない」など、いろいろいいことを言っているけど、冒頭に引用したところの話は、聴いていてまじで感動した。

10代の人間を預かるなら、それなりに物事を教えないといけない。そこで教えられることが周りの大人から学ぶ姿勢、っていうのはいい話である。アイドル産業って世界的にバリバリやっているが、こういうこと言える人が世の中に何人いるのか? と思う。秋元康とか、一回でも同じようなこと言ったことあるのか? と問いたい。

何事も、オーディションとかきつい練習とかで追い込まれて強くなっていく……みたいなノリのものはもう見たくない。本人たちがひたすら爆笑しながら作っているものを見たいし聴きたい。

オーディションやきつい練習が発生することはあるだろうが、少なくともそれをコンテンツにして提供する、そしてそれを見て楽しむというのは早くやめたほうが、結果的には世の中のためになるはず。

クラシック

そういえばクラシックってちゃんと聴いたことなかったな〜と思ってSpotifyの検索窓に、スペルどんなんやっけ、えーっと、とか思いながら「beethoven」と入力してみると「ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン」と表示された。

カタカナで書かれるとちょっと(というかだいぶ)アホな感じがする。例の肖像画付きで、急に音楽室のワックスの匂いを思い出した。丸いアイコンで表示されるのもだいぶおかしい。パソコンをポチポチやっているだけで音源にたどり着けるのは便利であるが、やっぱりなにかおかしいと思う。それにしてもNewJeansとベートーベンと奥田民生を並列に表示してしまう暴力性よ。

ついでにいうと、ベートベンの「ディスコグラフィ」が表示されてるのも変である。人気の曲、アルバム、シングルとEP、コンピレーション。当たり前だけどベートーベンはアルバムもシングルもEPもコンピレーションも出していない。ちなみに1番人気の曲は『月光』であった。

「2023年」にリリースされたアルバムがあったりして、それにも一瞬混乱する。なんかスクロールしまくったら18世紀の年号が表示されそうな気分になった。当たり前だけど、本人の演奏は残っていない。ふつうSpotifyの「アーティスト」欄には演奏家の名前が並んでいるのに、クラシックだけが作曲家でクレジットされているのかな。変である。

なんかもう、こういう茶番に付き合っているとだめになってしまうような気がしてきた。電脳世界から抜け出して焼き芋でもして過ごそう。再来週あたり京都某所でやるので興味ある方はご連絡ください。

気圧

今日は一日中めちゃくちゃ眠かった。ソーシャルメディアを見ていても、同じようなことを言っている人が多かった印象がある。こういう日にツイッターその他を開くと、みんな気圧気圧と言っている。

そのことなんですが、気圧で頭が痛くなるとか眠くなるとかならないとかについては、たしかにそうかもと思う一方で、ほんまにそうか? と疑問に思う気持ちもあります。

だって晴れの日の気圧が1020hPaくらいとして、そこから下がるといってもやばい台風のときでせいぜい920hPaくらいであろう。その差100hPa。それで頭が痛くなったり眠くなったりするとしたら、飛行機に乗ったときはどうなんだ。

検索してみたところ、高度10,000メートルを飛んでいるときの機内気圧は約0.8気圧らしい。つまり810hPa程度である。地上で体験するような気圧変化とは比べ物にならないくらい急激に気圧が下がっている。ペットボトルはベコベコにヘコんだりするが(機内でへコんだペットボトルを見るのちょっとこわいよね)、特に頭が痛くなったりしたことはない。眠たくはなるけど、暇だからだと思う。

だから頭痛や眠気の原因は気圧以外のなにかなんじゃないかとにらんでいるんですが、どうなんですか。もしかして飛行機に乗るときは興奮してるから大丈夫なのかな。それなら低気圧の日は家で大興奮していればいいですか?

プロの仕事

乗っていたバスが信号待ちで停車すると、不自然に前の車との距離を取っていた。車2台ぶんくらい。

なんでこんなところで停まったんだろう? と思ったら、対向車線に荷下ろしのバンが停まっていて、そのバンを追い越すためのスペースを空けているらしかった。なるほどちゃんと見ている。

感心していたら、追い越してくるクルマ……特にトラックやタクシーなどのプロドライバーたちはみんな、追い越しながらバスに向かって片手を挙げて会釈していた。

なるほどこれがプロか──。勝手にファブルみたいな気持ちになった。