songdelay

踊る!ディスコ室町のギター

今週読んだ本

このシリーズ忘れているわけじゃないんだけど、書くのにちょっと気合が必要なのでなかなか大変だ。最近はわりとおもしろい本を読めていて楽しい。


◯日本のクラシック音楽は歪んでいる(森本恭正)
チェンマイに行く飛行機で読んだら、めちゃくちゃおもしろくて夢中で読んでしまった。言語と音楽の関係性について書かれているのが特におもしろい。西洋音楽をやるなら、西洋の言語感覚が身につかないとどうしようもないと。なるほどなー。絶対音感がもてはやされていることについて、カタカナのドレミが頭にちらついていていい演奏ができるわけない、というのもおもしろい。
筆者はとにかくブチギレているが、怒っている人の文章はおもしろい。怒りと言葉は相性がよいのである。そもそもポジティブなことは言葉にする必要性が少なく、これクソなのになんでみんなわからないんだ? みたいなことには言葉が必要であるから、出力に慣れていてスムーズなのだ(千葉雅也もそういうことをツイートしていた気がする)。


◯「おりる」思想 無駄にしんどい世の中だから(飯田朔)
「これからの時代、生き残るためには……」みたいな煽り文句が溢れているけど、なんでなんもしなかったら死ぬ前提なの? と指摘していて、たしかにと思った。なんもしない人がどんどん死んでいく前提の社会は狂いすぎているのでどっかで是正したほうがよい。
本や映画の批評が展開されているが、そのラインナップが独特で楽しい。『プーと大人になった僕』『バトル・ロワイアル』『仁義なき戦い』ときて、いくつかの思想書を挟んで、後半は朝井リョウ作品の批評が続く。朝井リョウそんなに読んでないけど、思想の変遷が指摘されててなかなかおもしろかった。


◯どうせ今夜も波の上(椎名誠
大量に読んでいるので、もう椎名誠の執筆の調子がかなり読み取れるようになってきた。それでいうとこの本に収録されている期間はわりと調子がよくて、どう考えても締め切りに追われて適当にやっつけました、みたいな回が少ない(けっこうひどい時期があったりする)。
この時期の椎名誠はいつにも増して写真に関して考えていたようで、写真にまつわるエッセイが3回くらい連続している。その中で、日本人はいいカメラを作るしそれを持っているけど、撮る写真はしょうもない記念写真ばっかり……という話題があって、たしかになあと思った。わりと今でもそうだと思う。みんないいカメラを買っても、明るいレンズでお花を撮って背景をボカシてうっとりしているよなあ。なにがうれしいんだ。


◯私が30代になった(イ・ラン)
イラストエッセイ。力の抜けた絵がよい。おれも今年30代になるのでそれに対して若干ビビっているところがあるけど、まあ別にただ30代になるだけだよな……ということがだんだんわかってきた気がする。

チェンマイの車窓から

2月はモンゴルに行く予定があったんだが、なんやかんやあって行き先がタイに変更になった。それで先週の日曜日にベトジェットの直行便でチェンマイに来まして、今はバンコク行き寝台列車のベッド(二段ベッドの上段)でこれを書いています。

チェンマイでは山岳民族カレン族の村でコーヒー畑を見学したり、旧市街をブラついたりした。コンビニのレジ横でマシーンに詰め込まれているコーヒー豆を作るためには莫大な労力がかかるということがよくわかったし、チェンマイ市内では地元民も観光客もみんなワイワイやっていて開放感があり、同じ観光地古都として京都ももうちょい頑張った方がええんちゃうかと思うところもいろいろあった。とりあえずクソ安いコーヒー豆を買うのはなるべくやめていこう。

ところで寝台列車というのに初めて乗っているんですが、これはなかなかいいものですね。こういうので京都東京間を片道5000円くらいで往復できるようになったらかなりうれしい。昔はそういう夜行列車もあったんだろうし、JRはさっさと国鉄に戻して、そういうのをガンガン復活させてほしい。利益を追求していると、なるべく狭い箱に大量の人間を押し込むのが正義になってしまう。まあ利益はトントンやけど楽しいからええやん、みたいなものをどんどん復活させないと、狭い箱に押し込まれる一方では困る。

Ditto

www.youtube.com

www.youtube.com


前のエントリでNewJeans『OMG』のミュージックビデオがすごい、これは爆笑しながら作ったにちがいない! とか書いていたけど、そのひとつ前にリリースされていた『Ditto』のMVもすごかった。学校が舞台になっているやつ。sideA、sideBの2パターンが制作されている。

『Ditto』のMVには全体を通してひたすら緊張感があって、それはいつかやって来る「終わり」を感じさせるからだ。過去の映像を見ている設定だが、このMV自体も時間が経てば過去の映像になる。セットの部屋にはわざわざビートルズのポスターが貼り付けられているが、ビートルズは10年で解散したグループである。ではNewJeansは何年で? という思いがよぎるのは自然なことだ。

MVからは「まあアイドルにハマるのもそこそこにしておいて現実の世界でも頑張りなさいよ」というメッセージも感じる。『OMG』は「あんたらiPhone見すぎてほぼ病気やで」みたいな内容だし、そういうちゃんとしたことを言われると、こっちもマジメに人生に取り組みたくなる。ちゃんとしたことを言ってくるし、曲の世界観もしっかり拡張しているすごい映像だ。おれも有限な人生をちゃんと生きます。

今週読んだ本

「今週読んだ本」で1年間毎週ブログを書いてみようと思って12月から始めていたけど、年末年始でバタバタしてたらいきなりストップしてしまっていた。大変な週はスキップしてもいいことにして続けたい。

改めて年末以降に読んだ本を振り返ってみたら、海外の生活にまつわる本をよく読んでいた。日本で30年近く生きてきたけど、他所の暮らしはどんな感じなんだ? というのが最近の関心。


◯パッキパキ北京(綿矢りさ
綿矢りさ新刊。本人が中国滞在取材に行ったらしく、コロナ禍の中国の描写が生々しい。でもそれが小説の舞台設定としてうまく機能しているかというと、そうでもないような気もしてしまった。エッセイとして読みたい感じというか。
でも文章にはドライブ感があって、特に後半にかけては楽しく読んだ。著者も書いているうちにだんだんノッてきたんじゃないか。

◯シベリアのビートルズ(多田麻美)
グーグルマップでモンゴルのあたりを見ようとするとき国境の北にある「イルクーツク」という地名がたびたび目に入る。どんなところなんだろうとなんとなく関心を持っていた。この本はそのイルクーツク在住の著者が書いたもので、現地で出会った夫やその友達のエピソードが紹介されている。
ビートルズが流行したときにグッズが自由に手に入らなかったので海賊版のポスターを借りて一週間ずつ自分の部屋に貼ったとか、アメリカのヒット曲が意外と知られてないとか、ロシアならではの話がおもしろい。それに比べるとやっぱり自分たちは「西側」にいるんだな。
多田さんのブログは以前から購読していたけど、はてなブログはロシア政府のブロック対象ではないのかな。いつかイルクーツクに行ってみたい。
lecok.hatenablog.com

◯インドでわしも考えた(椎名誠
「インドには空中浮遊で地上3メートルに浮いてしまうヨガの達人がいるらしい」とか言ってヨガの師匠を訪ね歩いていて、本気じゃないにしてもアホすぎる。でも40年前にインドに対して「もしかして……」と思う余地があったとすると羨ましくもある。いつも旅に付き合ってくれる仲間がいてそれもちょっと羨ましい。カメラマン・山本皓一による写真もいい。

◯定本 岳物語椎名誠
岳物語は何度か読んでいたけど、この「定本」には、作中に登場する岳少年まさに本人(渡辺岳さん)によるあとがきが収録されていて、それ目当てで読んだ。そのあとがきをかいつまんでいうと「岳」本人としては自分が題材となったこの私小説を「憎んでいた」「受け入れられない」そうである。自分がその立場に置かれることを想像すると当然そうなる。この本を何度も読んでいる読者としては罪悪感すら感じる話である。
自分もWebの記事やZINEに書く文章の中に自分以外の誰かを登場させることがあって、どうしてもそのことについて考えてしまう。家族を含む他人について描写することはそれ自体に暴力性をはらんでいる。だからといってじゃあなにも書きませんというわけにもいかない……というのは作家のエゴであるが、正直なところ自分は「それでも書く」を選ぶと思う。程度の問題なのかなあ。許してもらえるものを書くしかないのかな。

◯韓国語のしくみ《新版》(増田忠幸)
「新書みたいにスラスラ読める!文法用語にたよらない画期的な入門書」とうたわれているシリーズ。「モンゴル語のしくみ」を読んだとき、勉強を始める前にだいたいの全体像がわかって便利だったような気がして、韓国語版も読んでみた。
そんなに込み入った話は出てこないけど、duolingoをバンバン進めているだけではわからなかったことが解決したりしてうれしい。「お姉さん」という意味の単語が「ヌナ」「オンニ」の二種類あるが、どう使い分けるのか? とか(男性が言うときはヌナ、女性が言うときはオンニらしい)。
内容と関係ないところでは、文章の作り方がなんとなくソフトウェアエンジニアのそれに近いような気がした。言語を正確に操ろうとするとこうなるのか。

◯万物の黎明(デヴィッド・ウェングロウ、デヴィッド・グレーバー)
話題の分厚い本。正月からちょっとずつ読んでいるがとにかく分厚いのでちびちび読み進めている。この本だけは読み終わった章について書いていってもいいかも。

爆笑制作物と労働成果物2

www.youtube.com

前に「爆笑制作物と労働成果物」というタイトルでブログを書いたけど、今日NewJeansのMV(『OMG』)を見ていたら、これは爆笑しながら作ったんじゃないかと思った。映像がちゃんとおもしろくてびっくりする。ていうかドラマパートも日本語字幕がつけられるようになっていてすごいね。

どうやって制作してんのか知らんけど「舞台は精神病棟で……」「自分をSiriだと思いこんでいる設定で……」とか言って会議してたと思うとめちゃ楽しそう。最後にTwitterで文句いってるヤツを登場させるのも含めて、精神病棟の設定も効いている(いろんなシーンが登場する必然性を生んでいて、それは「夢オチ」より強力)。みんな狂っちゃってるんだよな。とにかく誰もやってないことをやってやろう、みたいな気概を感じる。

一方で前のエントリで挙げた日向坂46のMVを見返してみると、曲と全く関係がない「すごい映像」を見せる内容になっていて、これって紅白のけん玉と同じメソッドだ。「頑張りましたね」以外の感想がなくてすごい。なんでこうなっちゃうのかというと、まじでみんな学生時代に野球とかをやりすぎているんだと思う。特に目的なく、とりあえずいっぱい練習して大変だったからすごい! みたいなことが多いけど、異常なので考え直したほうがいいと思う。


songdelay.hatenablog.com

いいライブ日記

  • 土曜日は東京でライブがあって渋谷へ。めっちゃいいライブをしたのはよかったが、36時間パックで借りたハイエースを往復15時間くらい運転したので日曜月曜とぐったりしていた。今回やけにロングドライブできるな〜と思って運転ロボ化していたところ、帰ってきたら自分がガス欠になっていたのだった。疲れすぎて連続でコタツに入ったまま寝落ちしてしまい頭も体もバキバキになったが、昨日からミカンを食べまくることでビタミンを補給して、ようやく脳みそがはたらくようになってきた。
  • 渋谷の街は、なんというかこれでいいのかという感じになっている気がしたが、リハーサルの前に松濤の公園*1に行った帰りに寄ったお蕎麦屋さんがよかった。*2そばも安くてうまいし、昔からここで営業しているのか、おばちゃんも上品でフレンドリー。並びのコーヒー屋さんも雰囲気よさげだったし、渋谷に来たらとりあえず落ち着いたエリアに逃げるといいのか。
  • ライブは我ながらよかったと思う。本番前の前室でモチヅキさんが「遠征のときは毎回いいライブができる気がしていたけど、本番前に一緒にいる時間が長いからかもね」と言っていて、たしかにそうかもな〜と思った。練習もたくさんしたしな。お客さんも喜んでくれて、懐かしい人にも新しい人にもたくさん会えて嬉しかった。
  • 渋谷LUSHのお客さんからは、かなりのやる気を感じた。生演奏って客席のムードからかなりの影響を受けるものだから、お客さんにやる気があると助かる。発生するコミュニケーションがよいものになる。お客さんにとっても得、演者にとっても得である。*3
  • こういういいコミュニケーションがあるライブって、キャパ200人くらいまでのハコじゃないとできないような気がする。もちろん1000人入るホールや1万人入るドームでもいいライブはあるんだけど、そういうデカ箱のライブやコンサートって「生で見た!」っていう神の実在を確認したことの感動はあっても、やっぱりどうしてもコミュニケーションがアバウトになる。それでいうと今NewJeansのライブを見てみたい気持ちがあるが、おれは「生で見た!」以外の感動も受け取りたいので、できれば100人くらいのハコでみたい。ミンジいいぞー! とかって野次りたい。だめか。
  • その点、われわれのライブはだいたい200人以下のハコでやっているので安心である。お客さん全員のエネルギーを1件ずつ確認しながらライブをしています。次は1月28日に大阪でやる。関西のみんな集まってくれ!

*1:映画『PERFECT DAYS』に出てきた隈研吾デザインのトイレを見にいった。オシャレなのかもしれんが、だからなんなんだと思った

*2:春木屋さん

*3:もちろん演者はお客さんのやる気を引き出せるようにがんばっている!