(前回の続き)
今さらながら書き始めたモンゴルレポート。2019年7月のモンゴル武者修行ツアーについて書いています。
いよいよ武者修行も最終日。この日からは首都ウランバートルを探索。モンゴルでこんなに現代アートに触れるとは思わなかった。
◯7月16日(6日目)
相変わらず全身が筋肉痛に襲われており、うめきながら起床。前日購入したフルーツで朝食をとる。伊藤さんがオピネルナイフでリンゴをさくさくと切り分けてくれている。
持ち物をチェックすると、着られる服が減っている。草原で洗濯のタイミングを逃してしまっていたのだ。家主に連絡して洗濯機の使い方を教えてもらい、洗剤がないので代わりにシャンプーを投入してロシア語表記の洗濯機を起動する。
みんなで1日のスケジュールをざっくり相談して、ドラム式洗濯機を稼働させたまま出発。5人乗りの車に7人乗らなければならず、ぎゅうぎゅうに乗り込んだ。
ウランバートルの路面は結構ボコボコしていて、スピード抑制のためのハンプ(道路上の凸凹)も設けられている。荷物スペースに乗り込んだふたりはバウンドして頭を打った。
第一目的地はウランバートル郊外のリゾート地。宿泊施設用に新型ゲルが納品されるらしく、どんなものか調査するのだ。
到着して内部を見学させてもらうと、フレームが入っており半ば建物という感じ。地面と接続されているため、移動式住居という特徴は失われている。ストーブも置いておらず、電気床暖房が設置されるらしい。「ゲルみ」は薄い。残念ながら画期的な機構も見つからない。
ふーん、と思いながら外に出てあたりを見渡すと、ピカピカの新型ゲルに混じって1つだけ使い込んだ様子のゲルがある。聞くと、作業員のみなさんがそこに寝泊まりしているらしかった。なるほど、泊まり込み作業にゲルがあると便利だ。プレハブを持ってくるよりよっぽど簡単で機能的。伝統的なゲルの方に感心してしまった。
ひととおり見学させてもらったあと、近くのレストランに移動してランチ。ウランバートル市内が見下ろせるすごいロケーションだ。掛け時計に”Rolex”と書いてあったりする。さすがリゾート。
メニューにカツカレーがあったので頼んでみるとカレーソースのかかったカツが出てきた。めちゃくちゃボリュームがある。うまい。ホーショルも注文していたので腹がパンパンになった。モンゴルに来てからずっとお腹が一杯になっている気がする。
昼食後はMNタワーというピカピカの高層ビルに移動して、現代美術のギャラリーを見学。Uuriintuya(ウーリントーヤ)*1とUrjinkhand(ウルジカン)*2という女性作家2人のグループ展だ。伊藤さんに現代アートの見方を尋ねると、素材・技術・コンセプトに注目するべし、とのこと。
伊藤さんの提案で、ギャラリー内で一番高い作品を予想したり、もし購入するならこれという作品を選ぶ。各自の発表を聞いてみるとそれぞれに理由があり、いちいちナルホド…と頷かされる。
受付のお兄さんに価格表を見せてもらって答え合わせ。3〜4万円で買える作品があったので購入を考えたが、とりあえずは一旦落ち着いてカタログとポストカードセットだけ購入した。
現代美術の話をしながら向かった次の目的地は、アギーさんオススメのフェイシャルマッサージ。
施術台に横になり、顔全体をグイグイとマッサージされる。珍しい体験なので何をされているのか覚えておこうと思っていたが、気持ちよくて寝てしまった。
終了後、料金を聞くと1人あたり約1万円くらい。予想を遥かに上回る料金に武者修行メンバー一同で息を飲んだ。アギーさんがコンスタントに通っているとのことだったので油断したが、そういえば彼の車はメルセデスだ…。
顔はめちゃくちゃプルプルになった。
謎のディープリラックスを体験したあとは、火鍋の店に移動して夕食。肉はもちろん羊だ。草原をガイドしてくれたドギーさん・カイさん(ふたりとも大学生だ)とも合流して、更にウランバートルの話を聞く。モンゴルでは国立大学の男女比が1:9という話に驚いた。遊牧民の男子は力仕事を任されるので進学しづらい場合があるということだ。
ドギーさんは日本のドラマを見ているという。最近は「逃げ恥」を見たとのことだ。日本の男はみんなあんなにナヨナヨしているんですか??と言うので、みんながそういうわけではないよ…と答える。
また満腹になり、お腹を抱えながらアギーさん宅に戻る。1日を振り返り、昼間ギャラリーで見た作品を購入するかについて皆で相談。Sさんは本当に買いそうだ。
そろそろ旅も終わりに近く、日本に帰ったら同窓会がてらゲルを建てたいねーという話題になる。伊藤さんは過去に色んな場所でゲリラ的に建てたことがあるが、不審だ!と通報されてしまうこともあるという。鴨川デルタでもダメだったそう。どこなら可能なのか議論したところ、大学のキャンパス内の芝生にしれっと建てるのが良いのでは、という結論だ。
◯7月17日(7日目)
ついに武者修行ツアーも最終日。早く目が覚めたので、みんなが起きるまで前日までの行動についてメモをつける。刺激的なことがありすぎてなかなか記録が追いつかない。
腹ごしらえに日本から持ってきていた餅を茹でて韓国海苔で巻いて食べる。
この日は車2台に分乗。ベンツ専門の修理業を営んでいるバトゥーカさんというワイルドなお兄さんが運転してくれた。車はもちろんメルセデス・ベンツ。Gクラスだ(ウシジマくんのやつ)!ツアーファイナルにふさわしい荒々しい運転でウランバートルを走る。
午前中は現代美術作家のアトリエ訪問。Nomin Bold(ノミンボルド)*3さんとBaatarzorig(バートルゾルグ)*4さん夫妻の作業場だ。ふたりともモンゴル現代美術のトップアーティストとして活躍しているらしい。ノミンさんは用事で不在だったが、バートルゾルグさんがもてなしてくれた。
マンションの1階にある部屋は天井が高く、ビートルズのレコードが流れている。壁や棚のいたるところに作品が掛けられている。
奥さんの作品を含め、各作品について各自質問しながら解説してもらうと、子供の幸せを願ったもの、モンゴルの現状についてのもの、等のコンセプトがある。資本主義の象徴としてミッキーマウスが登場するのがおもしろい。
ここでも各作品の価格(かなり高額なものもある)を聞いていると、ノミンさんのドローイングが安い。ここしかないと思って思い切って購入した!絵を買ったりするのは初めてのことで興奮する。
旅の思い出に絵を買う。自分史上最大級に文化的な活動だ。
近くのロシア料理店で食事をしたり、近くの医大病院(最新医療器機と寺院・チベット医療が組み合わさっている!)を見学したりしているうちにSさんが決意を固めたらしく、ウーリントーヤさんの作品を購入しに前日のギャラリーへ。
これ買います!と伝えると、近くにいたというウルジカンさんが来てくれた。持って帰りやすいように絵を木枠から外して丸めてくれている。
待っている間、受付のお兄さんにBGMで流れている音楽を教えてもらう(Sainkho Namtchylakというアーティストだった*5)。
せっかくウルジカンさんが来てくれたので、本人から作品の解説をしてもらう。モンゴル女性がどう見られているか、という内容。自分自身も子どもを3人育てるために7年間作家活動を休んでいたらしく、それでも復帰して展覧会に作品を出すのだから凄い。
その後は最後のお土産購入タイム。元国営企業であるGOBIでは羊毛製品がめっちゃ安くて、カシミヤ手袋が1000円。
強烈な交通状況の横断歩道を渡り、路地裏のデール(民族衣装。卒業式とかで着るらしい)ショップを見学しつつノミンデパートでも買い物。小さいゲルの置物を買った。
結構ゆっくり買い物してしまったので、時間がなくなってきている。ロードサイドのレストランに入り、パッと食べて出ましょう、という話をするものの、注文した料理がなかなか出てこない。飛行機の時間がかなりギリギリだ。
あまりにも料理が出てこないので、もう持ち帰りにしてください!と告げてさっさと車に乗り込むが、空港までの道は絶望的な渋滞だ!
まあ大丈夫でしょう、みたいな雰囲気だったが、さすがにこれはヤバいのでは…という空気に変わってきた。
なんとか渋滞を抜けて空港に辿り着く。もう離陸の30分前だ!
急いで荷物を整理してチェックインカウンターに駆け込もうとするが、なんと受付時間終了で警備員に止められる。全員が言葉を失った。
何とか次の便を確保して、空港内の喫茶店に移動する。「まあ一杯コーヒーでも飲んで落ち着きましょうや」と伊藤さんが顔を白くしながら飲み物を奢ってくれる。
笑うしかないとはこのことで、なぜか全員笑顔である。コーヒーを飲むと不思議と落ち着いた。
最後の最後にアクシデントがあったが、トランジットの時間に余裕があったおかげで予定通りに帰国できた。
関西空港に着陸して飛行機の扉が開くと、強烈な湿気と熱気を帯びた空気を重く感じる。海外旅行が好きな人が言う「乾燥していて過ごしやすい」という言葉の意味をやっと理解した。
◯2020年5月27日(おわりに)
モンゴルではわりと詳細な日誌をつけていて、いつかどこかに書こう…と思っているうちにかなり時間が経ってしまいました。
変なタイミングで書くことになりましたが、書いているうちに思い出したことがいっぱいあって草原が恋しくなったりしています。
モンゴルは不思議な空気感でした。草原に暮らす遊牧民は今でもゲルに住んで、動物たちと一緒に力強く生活を紡いでいます。ウランバートルは高度経済成長の真っ最中で、これからどんどん良くなっていくんだ!というエネルギーを感じます。どちらも日本とは全く違う風景ですが、どこか懐かしさや安心感のある景色でもありました。
モンゴルという国を訪れたことだけでなく、武者修行ツアーに参加できたことも最高にラッキーなことでした。主催・伊藤洋志さんの思想が反映されたような、しなやかで丈夫な行程。そしてこのツアーを発見した、個性豊かな参加者のみなさん。
人生観が変わって会社を辞めました!みたいな劇的な変化はありませんが、武者修行の経験は確実に自分の支えになっています。デスクに飾った小さなゲルの置物を見るたび、おれはモンゴル武者修行メンバーや…ということを思い出して、謎の気力が湧くようです。
この1年人と会うたびに、モンゴルほんまに最高ですよ!とプレゼンしていますが、なかなか本気で聞いてくれる人は現れません(モンゴルか〜〜みたいなリアクションが多い)。それでも当面の目標は、もう一度草原を訪れて草競馬に出場することと、ゲルを購入して鴨川デルタに建てること、あとは誰か1人でもモンゴルへ連れて行くこと、としています。
はじめの2つはそのうち実現できるような気がしています。
最後の1つは、誰か反応してくれる人がいないと達成できません。
誰か一緒に行きませんか。