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踊る!ディスコ室町のギター

勝っても負けても虎命日記

西宮の叔母が取ったチケットで、日本シリーズの第5戦を見に行く。日本シリーズを見るのは2003年以来だから20年ぶりである。20年前の試合では金本が延長10回にサヨナラホームランを打って盛り上がったが、インフルエンザに罹ってそのあと寝込んだ思い出がある。

アルバイトを早めに切り上げて、プレイボールと同時に甲子園に着く。席を探してライトスタンドをさまよっていると、前を歩いているオジサマが着ているレプリカユニフォームの背中には「勝っても負けても虎命」の刺繍があった。なんとなくネタ的に語られることのある言葉だが、甲子園球場のライトスタンド的にはわりとマジな意味で共有されている価値観である。

手を振っている叔母を見つけると、席はライトポールぎわの中段だった。ピッチャーとバッターの真ん中にオレンジ色のポールがドーンと見える席。とりあえず着席して売り子からビールを買って飲む。750円でちょっと高いと思うが祭りなので気にせず飲む。出町柳のコンビニで買ったおにぎりの存在を思い出してそれも食べる。

こういう景色

試合は初回からランナーが出るものの得点に至らず、歯がゆいイニングが続く。タイガースも大竹が好投していたが、ゴンザレスにホームランを打たれてしまって1点を追いかける展開になった。回を重ねるとオリックスの先発・田嶋の調子がどんどんよくなってきて、スタンドもため息がちになってきた。7回表、中野と森下のダブルエラーで1点を追加されてさらにため息。森下、集中ー! とヤジが飛ぶ。

しかし8回。湯浅が出てきてバファローズ打線を三者凡退に打ち取ると球場の雰囲気もやや明るさを取り戻した。オリックスのピッチャーが代わって山崎颯一郎が出てくると、うしろの席の男女が「吹田の子やろ」「そうや吹田の子」と言っていてなんだかノンキである。そしてその吹田出身のピッチャーから近本がタイムリーを打ってスタンドは総立ちになり、僕は足元に置いていた2杯目のビールをこぼした。まわりの知らん人たちと応援メガホンでハイタッチを交わす。うしろのおじさんは「やったヨー!」と叫んでいる。別におじさんが何かやったわけではないが気持ちはわかる。おじさんともハイタッチしておいた。

応援に入る熱も高まってきてというか高まりすぎていて、僕たちが座っている席のまわりでは応援団とテンポが合わなくなっていた。すぐそこで猛虎会(応援団)のお兄ちゃんがトランペットを吹きまくっているのにみんな全然聞いてなくて、それより1.5倍くらいのスピードでチャンステーマやコンバットマーチを歌ってしまうのだ。歌の最後の「かっとばせー、◯◯!」の頃には1小節くらいズレているし、みんな好き勝手に歌っていた。

健気にラッパを吹きまくる応援団員

山崎が引っ込んで宇田川が登場すると周囲から「宇田川だけはやめてくれ」「吹田もうちょっと投げてくれよ」などと泣き言が聞こえてくる。このシリーズで完全に抑えられていることを知っているからであるが、しかしさっきエラーした森下がこの宇田川から逆転タイムリーを打った。もう完全に押せ押せムード、続く大山もタイムリーを打って宇田川をノックアウトした。宇田川がマウンドでがっくりうなだれているのが見えたが、スタンドの人たちは全然見てなくてハイタッチに忙しかった。ピッチャー交代のあいだに六甲おろしを3番まで歌う。

結局その回は坂本も2点タイムリーを打って、9回は岩崎が出てきてさっさと抑えてしまい試合終了。9時半ごろだったので遅くなりすぎずちょうどいい時間だった。勝利監督インタビューとヒーローインタビューを聞いて、また六甲おろしを3番まで歌って帰る。帰りに甲子園駅で列に並んでいるときも、目の前に「勝っても負けても虎命」のユニフォームを着たおじさんがいた。

これで日本シリーズ現地観戦の勝率は20年間で100%である