songdelay

踊る!ディスコ室町のギター

解像度を上げる

 

 

 

 

先週、京都の駐車について記事を書いた。

 

 

普段このブログでは日記とか読んだ本のこととかを書いているので脈絡のないものだったが、この記事はデイリーポータルZ新人賞に応募するために書いたものだ。

 

このときに参考にしようと思って記事を読み漁っているうちにすっかりDPZにハマってしまって、今週は毎日バックナンバーを読んで、YouTubeのチャンネル登録までした。

 

特に面白かったのは、三土たつおさんという方が書かれている"路上観察系"の記事。

ツイッターでも話題になった「目に映るものの名前をできる限り知りたい」は感動すらあった。

dailyportalz.jp

 

あと、YouTubeの企画「ストへぇ」も面白すぎて一気見してしまったが、やっぱり三土さんが出演されている回が突き抜けて面白い。

 

 

 

街中のカラーコーンやポスト、マンホールに詳しい三土さんを見ると、この人はなんでこんなに色んなものに興味を示しているんだ??と思うと同時に、自分はこんなに世の中の情報を見落としていたのか!みたいな気持ちにもなった。

そして僕も「セフテックのカラーコーン」を見分けられるようになった。

 

 

 

そんな1週間を過ごした日曜の晩、三土さんのインタビューが公開されているのを発見した。

 

dailyportalz.jp


寝る前に布団の中で読んでいたのだが、わかる…!の連続に居ても立っても居られずに起き出してしまった(そしてこれを書いている)。

 

特に頷きまくってしまったのは以下の部分だ。

 

石川:
あと、「知っている」っていう状態の嬉しさと、「知る」っていう行為の楽しさって両方あって、後者の喜びがすごい大きいなっていうのは、とてもわかります。
自分が変わっていくおもしろさというか。

三土:
まさに!!!ギター練習してる最中(※)の感じ。

※注:超どうでもいい話かと思いますが、石川が1月からギターを始めて、そのことです。

石川:
まさにそれを思い浮かべてました。
僕は電子工作でも、最近やってるギターの練習もそうなんですが、「できる」ことより「できるようになる」のが楽しくて。
知ることについても同じなんだろうなと思って。

 

『自分が変わっていくおもしろさ』。結局自分が嬉しかったり楽しかったりする瞬間って、全部これだ。ロールプレイング系のゲームで、新しく覚えた魔法ばっかり使ってしまうような「コマンド増えた!」のうれしさ。*1

ギターのコードを押さえられるようになったり、スパイスカレーが作れるようになることも「コマンド増えた」だ。そして嬉しさのあまり同じフレーズばかり弾いてしまったり、カレーばかり食べたりしてしまう。

 

 

それから、たぶん「知る」ということに対する欲求や快ってめっちゃプリミティブなものだ。

その証拠に、誰だってちびっこ時代には電車や駅、はたらく車、昆虫や恐竜なんかの名前を覚えるのに夢中になった経験があるだろう。僕もウルトラマンに登場する怪獣を覚えては報告しまくって、父母を困らせていたことがある(らしい)。

 

名前を知るということは、世界の解像度を高めるということだ。大げさじゃなく、道路沿いのパイロンの種類がわかるようになるだけで見える景色は変わるんじゃないか。

 

僕はもっと「コマンド増えた」のうれしさを感じたいし、ちょっと高い解像度で世界を見たい。

とりあえず、今週はギターを練習して、「街角図鑑」を買います。

 

 

 

街角図鑑

街角図鑑

 

 

*1:これ、RHYMESTER宇多丸が「ウィークエンド・シャッフル」で話していたような気がするけど、何の回か忘れてしまった。

京都のギリギリ駐車コレクション

f:id:makoto1410:20200531204717j:plain



京都には、たくさんの名物がある。

歴史、寺社仏閣、八ツ橋、舞妓さん、ぶぶ漬け…。


色々と有名なものがあるが、僕はここにもう一つ追加したいものがある。


駐車技術の高さだ。




▪️駐車テクに驚かされる

観光バス・タクシーが忙しく行き交う道路や入り組んだ路地を日々運転している京都人は、総じて運転が上手だ。

さらに、駐車に関してはめちゃくちゃレベルが高い。

f:id:makoto1410:20200531105711j:plain
縦列駐車マスターだらけだ


大学に入って京都市内で生活するようになったとき、一番驚いたのは京町家の壁面ギリギリに駐車された車が多いこと。
切り返すのが難しいような細い路地でも、壁をかすめるようにピッタリと車が停められている。
免許を取ったばかりだった僕は、街を歩くたびに感心しきりだった。


そんな京都人の駐車テクを意識して観察するようになったきっかけは、ある畳屋さんの店先に停められた1台の軽トラック。
鼻面を壁に擦り付けるように停められている姿を見かけるたびに度肝を抜かれた。


f:id:makoto1410:20200531010545j:plain
衝撃の京都スタイル


ストリートビューで確認すると、ちょうど水色の軽トラックが停められている様子が収められている。
改めて見ると、ギリギリというか…ぶつかってしまっているようにも見える。


前進していってビタっと停止する技術があるのか、それとも手前でギアをニュートラルにして後ろからゆっくり押しているのか。
そしてここまでギリギリを攻めているのには、なにか理由があるのか。


できれば店主の方にも話を聞きたいし、久しぶりに現地を確認しに行こう。

そう思って揚々と出かけると……



f:id:makoto1410:20200531011720j:plain
うわあああああ



まさに建物が解体されている瞬間に立ち会ってしまった。

畳屋さんはいつの間にかお店を畳んでいたのだ。


当然、水色の軽トラの姿もない。

密かに見るのを楽しみにしていたものがなくなってしまった。



最近は昔ながらの住宅や店舗が取り壊され、駐車場や宿泊施設に建て替えられてしまうことも多い。
他のギリギリ駐車の姿も、どんどん見られなくなってしまうかもしれない…。


そうなってしまう前に、現在の様子を記録しておこう。

そう思い、街じゅうのギリギリ駐車を集めることにした。





▪️ギリギリ駐車のある風景

京都では、少し歩くだけでいくつものギリギリ駐車が見つかる。


その道のプロ、たとえばレンタカー屋さんやディーラーの人が見事な技術で車を出したり入れたりしているのを見かけることはあるが、そういった技術が市民レベルで存在しているのだ。

f:id:makoto1410:20200531012132j:plainf:id:makoto1410:20200531012250j:plain
運転席のドアからは降りられない
f:id:makoto1410:20200531014319j:plainf:id:makoto1410:20200531014322j:plain
町家にイエローが映える
f:id:makoto1410:20200531014450j:plain
また発見!…と思ったら
f:id:makoto1410:20200531014513j:plain
奥の車の方がギリギリだ!


余裕を持って停めることもできそうなのもあるが、とにかくギリギリだ。
「おれの方がギリギリだぜ」みたいな対抗意識があったりするのだろうか。


f:id:makoto1410:20200531020517j:plainf:id:makoto1410:20200531020547j:plain
f:id:makoto1410:20200531020538j:plainf:id:makoto1410:20200531021145j:plain
f:id:makoto1410:20200531020553j:plainf:id:makoto1410:20200531021154j:plain
どんどん見つかる




だいたい50mも歩けば1つか2つは見つけられる。

京都市民にとって、この程度の駐車スキルは特別なものというわけではないのだ。



いくつも集めていると、なんとなくジャンルが見えてきたので紹介したい。



▪️ギリギリ駐車の種類

街で見かけるギリギリ駐車は、だいたい以下のように分類できる。

平行型

建物の壁と平行に停められている、京都では一番オーソドックスなスタイル。
元々駐車スペースとして想定されていなかったところを利用していることも多い。
町家の形状とも相性がよい。

f:id:makoto1410:20200531110541j:plain
納まりがよくて気持ちいい
f:id:makoto1410:20200531105915j:plain
目に映るすべての車がギリギリ駐車だ


すっぽり型

建物に駐車スペースが設けられているが、左右の遊びが少ないパターン。
家族の自転車等を置くために車を壁面ギリギリまで寄せていることも。

f:id:makoto1410:20200531110902j:plain
ミラーは畳んでからバックするのだろう
f:id:makoto1410:20200531110827j:plain
車が先か車庫が先か



思いやり型

玄関や道路の導線を塞がないよう、駐車スペースの端に寄せている。
ボディをぶつけてしまうリスクを負ってまで、周囲のことを思いやっている優しさを感じる。

f:id:makoto1410:20200531022625j:plain
余裕をもって停めることもできるのに…
f:id:makoto1410:20200531012132j:plain
平行型と思いやり型のハイブリッド
f:id:makoto1410:20200604221159j:plain
玄関への導線確保のための寄せ。左側の車にはどうやって乗り込むんだ!


天井型

ごく稀に出現。テクニックはさほど要求されないが、初めて停めるときは緊張しそう。

f:id:makoto1410:20200531023205j:plain
まさに紙一重。底も危ない
f:id:makoto1410:20200531023259j:plain
入念な寸法チェックを経て車種を選定したに違いない


その他

上記に当てはまらないものもある。停めかたは十人十色だ。

f:id:makoto1410:20200531095518j:plain
写真では伝わりにくいが、”シャッターがギリギリ型”
f:id:makoto1410:20200531095715j:plain
車を停めてからギリギリになった”後付け型”



▪️補助アイテムもある

ギリギリ駐車のためのアイテムがある。
オーソドックスな車止めや、古タイヤを利用したクッションなどだ。
これらがあれば日々のギリギリ駐車もこわくない。

道具によって目的を達成する。人類の知恵を感じるようで胸が熱くなった。


f:id:makoto1410:20200531112335j:plainf:id:makoto1410:20200531112401j:plain
f:id:makoto1410:20200531112353j:plainf:id:makoto1410:20200531112406j:plain
f:id:makoto1410:20200531112319j:plainf:id:makoto1410:20200531112328j:plain
f:id:makoto1410:20200531112308j:plain
雨樋を利用したテクニカルな手法
f:id:makoto1410:20200531111853j:plain
ポールにクッションが設置されている
f:id:makoto1410:20200531111931j:plain
古タイヤは結構ポピュラー
f:id:makoto1410:20200531112031j:plain
ここにギリギリ駐車が帰ってくるのだな…と思いを馳せる




▪️補助なしのストロングスタイル

しかし、上級者ともなると、補助アイテムが無くともギリギリ駐車を成し遂げる。

そこにはさながら柔道や華道のように、”道”を極めようとする心意気を感じる。駐車道だ(道路じゃなくて駐車場ではあるが)。


f:id:makoto1410:20200531114335j:plain
自分なら絶対にぶつけてしまう自信がある
f:id:makoto1410:20200531114342j:plain
タイヤなどに接触しているものを除くと、これが一番ギリギリだ
f:id:makoto1410:20200531114353j:plain
ノーガードでここまで寄せられるものなのか



俺はここまで寄せられる。お前はどうだ。
そう語り掛けられているような停めっぷりだ。



▪️思ったよりもたくさんあったし技術が凄かった

f:id:makoto1410:20200531120028j:plain
運転もだけど、駐車もお人柄を示すことがわかった

歩きまわることができる範囲でも、思ったよりも多くのギリギリ駐車が発見できる。ここまで密集しているのは日本で京都だけではないだろうか。
東京とかも多いのかもしれないが、密度で言えば京都の方が上だろう(知らんけど)。


道具を使って工夫して停めている人もいれば、己の技術を高めることでギリギリに駐車している人もいる。
ひとつひとつ違った駐車スタイルから、知らない人の知らない人生を感じた。




ところで、ひとつだけ懸念していることがある。

有名な「ぶぶ漬け」のエピソード(京都の家を訪れてぶぶ漬け(お茶漬け)をすすめられたら「長居してないで帰れ」の意味)が示すように、京都人はウラの意味を含ませて会話しあう習慣を持っている。

従って、ストレートに京都人の駐車テクニックを褒めると「狭い駐車場しか持てないのに不相応な車に乗るな」と受け取られかねないのだ。



この記事には、そんな意図はありません。

本当です。信じて。





・・・・・・・
(7月22日追記)

本記事がデイリーポータルZ新人賞にて、記事部門の最優秀賞を受賞しました!!

dailyportalz.jp

めちゃくちゃ嬉しいです。ありがとうございます…!
編集部のみなさんからのコメントもうれしい!!
 
なお、たくさんの人にご覧頂けそうで、せっかくなので宣伝させてください。

 
(以下宣伝)

○バンドをやっています
踊る!ディスコ室町という6人組ファンクバンドで活動しています。

Apple music、SpotifyAmazon prime musicなどのサブスクリプションサービスでも聴くことができますので、よろしければ是非チェックしてみてください!

odoru.xxxxxxxx.jp



○他にも記事があります
songdelay.hatenablog.com
songdelay.hatenablog.com

よろしければ!




以上、宣伝でした。

デイリー新人賞、本当にうれしいです。
賞品のガリTシャツ(?)も楽しみだ!


・・・・・・・
(8月13日追記)

本記事がデイリーポータルZにも掲載されました!

dailyportalz.jp


デイリーのフォーマットで読むと、なかなかちゃんとしているような気になりますね。
わが子の全国デビューを見守るかのような(?)気持ちです。

リズムから考えるJ-POP史(imdkm)

 

リズムから考えるJ-POP史

リズムから考えるJ-POP史

  • 作者:imdkm
  • 発売日: 2019/10/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

 

読み終わって、もう何年もファンクバンドやってるのにリズムに対して無頓着すぎる自分に気づいて反省した。

 

紙媒体でリズムを解説するのってかなり難しいような気もするが、本書では譜例や図表を使って目に見える形にしてくれるので非常にわかりやすい。SpotifyYouTubeで実際に楽曲を再生しながら読むとめちゃくちゃ勉強になる。

あと、とにかく自分の知識が断片的すぎるので、たまにこういうのを読むとJ-POPの流れが再確認できて楽しい。

 

同級生がベボベサカナクションを聴いて盛り上がっているのに背を向けてビートルズのコピバンをやっていたような高校時代が悔やまれる。みんなこんな面白い音楽聴いてたのかー。

 

 

記憶する体(伊藤亜紗)

 

記憶する体

記憶する体

  • 作者:伊藤 亜紗
  • 発売日: 2019/09/18
  • メディア: 単行本
 

 

誰もが自分だけの体のルールをもっている。階段の下り方、痛みとのつきあい方……。「その人のその体らしさ」は、どのようにして育まれるのか。経験と記憶は私たちをどう変えていくのだろう。
視覚障害、吃音、麻痺や幻肢痛認知症などをもつ人の11のエピソードを手がかりに、体にやどる重層的な時間と知恵について考察する、ユニークな身体論。

(春秋社HPより)

 

(中略)小説は、ある人物にまつわる具体的な出来事を記述する営みです。

一方、本書が扱うのは、出来事としての記憶そのものではありません。特定の日付をもった出来事の記憶が、いかにして経験の蓄積のなかで熟し、日付のないローカル・ルールに変化していくか。

(プロローグより)

 

 

犬がエサをもらうタイミングによってお手やオスワリを覚えていくように、僕たち人間も「上手くいった」という成功体験を積み重ねて行動の方針を(無意識のうちに)決めている。

 

障害がある人はそこからさらに一歩進んで、意識的な工夫によって身体をコントロールしなければならない場合がある。

さながらマニュアル車を運転するように、目が見えなくてもメモをとったり、切断された脚に力を込めたり、吃音症を抑えるために一人称を統一したりしているのだ。 

 

◯◯症の人は、みたいに一般化してしまうのではなく、個人の工夫や意識にスポットが当てられているところに惹きつけられる。

 

 

 

 

 

モンゴル武者修行の記録④ 旅の思い出に絵を買う

(前回の続き)

 


今さらながら書き始めたモンゴルレポート。2019年7月のモンゴル武者修行ツアーについて書いています。

いよいよ武者修行も最終日。この日からは首都ウランバートルを探索。モンゴルでこんなに現代アートに触れるとは思わなかった。

 

 

 

 

◯7月16日(6日目)

相変わらず全身が筋肉痛に襲われており、うめきながら起床。前日購入したフルーツで朝食をとる。伊藤さんがオピネルナイフでリンゴをさくさくと切り分けてくれている。

持ち物をチェックすると、着られる服が減っている。草原で洗濯のタイミングを逃してしまっていたのだ。家主に連絡して洗濯機の使い方を教えてもらい、洗剤がないので代わりにシャンプーを投入してロシア語表記の洗濯機を起動する。

 

みんなで1日のスケジュールをざっくり相談して、ドラム式洗濯機を稼働させたまま出発。5人乗りの車に7人乗らなければならず、ぎゅうぎゅうに乗り込んだ。

ウランバートルの路面は結構ボコボコしていて、スピード抑制のためのハンプ(道路上の凸凹)も設けられている。荷物スペースに乗り込んだふたりはバウンドして頭を打った。

 

第一目的地はウランバートル郊外のリゾート地。宿泊施設用に新型ゲルが納品されるらしく、どんなものか調査するのだ。

到着して内部を見学させてもらうと、フレームが入っており半ば建物という感じ。地面と接続されているため、移動式住居という特徴は失われている。ストーブも置いておらず、電気床暖房が設置されるらしい。「ゲルみ」は薄い。残念ながら画期的な機構も見つからない。

ふーん、と思いながら外に出てあたりを見渡すと、ピカピカの新型ゲルに混じって1つだけ使い込んだ様子のゲルがある。聞くと、作業員のみなさんがそこに寝泊まりしているらしかった。なるほど、泊まり込み作業にゲルがあると便利だ。プレハブを持ってくるよりよっぽど簡単で機能的。伝統的なゲルの方に感心してしまった。

 

ひととおり見学させてもらったあと、近くのレストランに移動してランチ。ウランバートル市内が見下ろせるすごいロケーションだ。掛け時計に”Rolex”と書いてあったりする。さすがリゾート。

メニューにカツカレーがあったので頼んでみるとカレーソースのかかったカツが出てきた。めちゃくちゃボリュームがある。うまい。ホーショルも注文していたので腹がパンパンになった。モンゴルに来てからずっとお腹が一杯になっている気がする。

 

昼食後はMNタワーというピカピカの高層ビルに移動して、現代美術のギャラリーを見学。Uuriintuya(ウーリントーヤ)*1とUrjinkhand(ウルジカン)*2という女性作家2人のグループ展だ。伊藤さんに現代アートの見方を尋ねると、素材・技術・コンセプトに注目するべし、とのこと。

伊藤さんの提案で、ギャラリー内で一番高い作品を予想したり、もし購入するならこれという作品を選ぶ。各自の発表を聞いてみるとそれぞれに理由があり、いちいちナルホド…と頷かされる。

受付のお兄さんに価格表を見せてもらって答え合わせ。3〜4万円で買える作品があったので購入を考えたが、とりあえずは一旦落ち着いてカタログとポストカードセットだけ購入した。

 

現代美術の話をしながら向かった次の目的地は、アギーさんオススメのフェイシャルマッサージ。

施術台に横になり、顔全体をグイグイとマッサージされる。珍しい体験なので何をされているのか覚えておこうと思っていたが、気持ちよくて寝てしまった。

終了後、料金を聞くと1人あたり約1万円くらい。予想を遥かに上回る料金に武者修行メンバー一同で息を飲んだ。アギーさんがコンスタントに通っているとのことだったので油断したが、そういえば彼の車はメルセデスだ…。

顔はめちゃくちゃプルプルになった。

 

謎のディープリラックスを体験したあとは、火鍋の店に移動して夕食。肉はもちろん羊だ。草原をガイドしてくれたドギーさん・カイさん(ふたりとも大学生だ)とも合流して、更にウランバートルの話を聞く。モンゴルでは国立大学の男女比が1:9という話に驚いた。遊牧民の男子は力仕事を任されるので進学しづらい場合があるということだ。

ドギーさんは日本のドラマを見ているという。最近は「逃げ恥」を見たとのことだ。日本の男はみんなあんなにナヨナヨしているんですか??と言うので、みんながそういうわけではないよ…と答える。

 

また満腹になり、お腹を抱えながらアギーさん宅に戻る。1日を振り返り、昼間ギャラリーで見た作品を購入するかについて皆で相談。Sさんは本当に買いそうだ。

そろそろ旅も終わりに近く、日本に帰ったら同窓会がてらゲルを建てたいねーという話題になる。伊藤さんは過去に色んな場所でゲリラ的に建てたことがあるが、不審だ!と通報されてしまうこともあるという。鴨川デルタでもダメだったそう。どこなら可能なのか議論したところ、大学のキャンパス内の芝生にしれっと建てるのが良いのでは、という結論だ。

 

 

 

◯7月17日(7日目)

ついに武者修行ツアーも最終日。早く目が覚めたので、みんなが起きるまで前日までの行動についてメモをつける。刺激的なことがありすぎてなかなか記録が追いつかない。

腹ごしらえに日本から持ってきていた餅を茹でて韓国海苔で巻いて食べる。

 

この日は車2台に分乗。ベンツ専門の修理業を営んでいるバトゥーカさんというワイルドなお兄さんが運転してくれた。車はもちろんメルセデス・ベンツ。Gクラスだ(ウシジマくんのやつ)!ツアーファイナルにふさわしい荒々しい運転でウランバートルを走る。

 

午前中は現代美術作家のアトリエ訪問。Nomin Bold(ノミンボルド)*3さんとBaatarzorig(バートルゾルグ)*4さん夫妻の作業場だ。ふたりともモンゴル現代美術のトップアーティストとして活躍しているらしい。ノミンさんは用事で不在だったが、バートルゾルグさんがもてなしてくれた。

マンションの1階にある部屋は天井が高く、ビートルズのレコードが流れている。壁や棚のいたるところに作品が掛けられている。

奥さんの作品を含め、各作品について各自質問しながら解説してもらうと、子供の幸せを願ったもの、モンゴルの現状についてのもの、等のコンセプトがある。資本主義の象徴としてミッキーマウスが登場するのがおもしろい。

ここでも各作品の価格(かなり高額なものもある)を聞いていると、ノミンさんのドローイングが安い。ここしかないと思って思い切って購入した!絵を買ったりするのは初めてのことで興奮する。

旅の思い出に絵を買う。自分史上最大級に文化的な活動だ。

 

近くのロシア料理店で食事をしたり、近くの医大病院(最新医療器機と寺院・チベット医療が組み合わさっている!)を見学したりしているうちにSさんが決意を固めたらしく、ウーリントーヤさんの作品を購入しに前日のギャラリーへ。

これ買います!と伝えると、近くにいたというウルジカンさんが来てくれた。持って帰りやすいように絵を木枠から外して丸めてくれている。

待っている間、受付のお兄さんにBGMで流れている音楽を教えてもらう(Sainkho Namtchylakというアーティストだった*5)。

 

せっかくウルジカンさんが来てくれたので、本人から作品の解説をしてもらう。モンゴル女性がどう見られているか、という内容。自分自身も子どもを3人育てるために7年間作家活動を休んでいたらしく、それでも復帰して展覧会に作品を出すのだから凄い。

 

その後は最後のお土産購入タイム。元国営企業であるGOBIでは羊毛製品がめっちゃ安くて、カシミヤ手袋が1000円。

強烈な交通状況の横断歩道を渡り、路地裏のデール(民族衣装。卒業式とかで着るらしい)ショップを見学しつつノミンデパートでも買い物。小さいゲルの置物を買った。

 

結構ゆっくり買い物してしまったので、時間がなくなってきている。ロードサイドのレストランに入り、パッと食べて出ましょう、という話をするものの、注文した料理がなかなか出てこない。飛行機の時間がかなりギリギリだ。

 

あまりにも料理が出てこないので、もう持ち帰りにしてください!と告げてさっさと車に乗り込むが、空港までの道は絶望的な渋滞だ!

まあ大丈夫でしょう、みたいな雰囲気だったが、さすがにこれはヤバいのでは…という空気に変わってきた。

 

なんとか渋滞を抜けて空港に辿り着く。もう離陸の30分前だ!

急いで荷物を整理してチェックインカウンターに駆け込もうとするが、なんと受付時間終了で警備員に止められる。全員が言葉を失った。

 

何とか次の便を確保して、空港内の喫茶店に移動する。「まあ一杯コーヒーでも飲んで落ち着きましょうや」と伊藤さんが顔を白くしながら飲み物を奢ってくれる。

笑うしかないとはこのことで、なぜか全員笑顔である。コーヒーを飲むと不思議と落ち着いた。

 

最後の最後にアクシデントがあったが、トランジットの時間に余裕があったおかげで予定通りに帰国できた。 

関西空港に着陸して飛行機の扉が開くと、強烈な湿気と熱気を帯びた空気を重く感じる。海外旅行が好きな人が言う「乾燥していて過ごしやすい」という言葉の意味をやっと理解した。 

 

 

 

 

◯2020年5月27日(おわりに)

モンゴルではわりと詳細な日誌をつけていて、いつかどこかに書こう…と思っているうちにかなり時間が経ってしまいました。

変なタイミングで書くことになりましたが、書いているうちに思い出したことがいっぱいあって草原が恋しくなったりしています。

 

モンゴルは不思議な空気感でした。草原に暮らす遊牧民は今でもゲルに住んで、動物たちと一緒に力強く生活を紡いでいます。ウランバートルは高度経済成長の真っ最中で、これからどんどん良くなっていくんだ!というエネルギーを感じます。どちらも日本とは全く違う風景ですが、どこか懐かしさや安心感のある景色でもありました。

 

モンゴルという国を訪れたことだけでなく、武者修行ツアーに参加できたことも最高にラッキーなことでした。主催・伊藤洋志さんの思想が反映されたような、しなやかで丈夫な行程。そしてこのツアーを発見した、個性豊かな参加者のみなさん。

人生観が変わって会社を辞めました!みたいな劇的な変化はありませんが、武者修行の経験は確実に自分の支えになっています。デスクに飾った小さなゲルの置物を見るたび、おれはモンゴル武者修行メンバーや…ということを思い出して、謎の気力が湧くようです。

 

この1年人と会うたびに、モンゴルほんまに最高ですよ!とプレゼンしていますが、なかなか本気で聞いてくれる人は現れません(モンゴルか〜〜みたいなリアクションが多い)。それでも当面の目標は、もう一度草原を訪れて草競馬に出場することと、ゲルを購入して鴨川デルタに建てること、あとは誰か1人でもモンゴルへ連れて行くこと、としています。

はじめの2つはそのうち実現できるような気がしています。

最後の1つは、誰か反応してくれる人がいないと達成できません。

誰か一緒に行きませんか。

 

 

 

 

 

f:id:makoto1410:20200527214848j:image
f:id:makoto1410:20200527214900j:image
f:id:makoto1410:20200527214826j:image
f:id:makoto1410:20200527214822j:image
f:id:makoto1410:20200527214829j:image
f:id:makoto1410:20200527214843j:image
f:id:makoto1410:20200527215001j:image
f:id:makoto1410:20200527214853j:image
f:id:makoto1410:20200527214856j:image
f:id:makoto1410:20200527214840j:image

f:id:makoto1410:20200527220933j:image

f:id:makoto1410:20200527215435j:image
f:id:makoto1410:20200527214832j:image

f:id:makoto1410:20200527215241j:image
f:id:makoto1410:20200527215238j:image
f:id:makoto1410:20200527215301j:image

f:id:makoto1410:20200527220900j:image

f:id:makoto1410:20200527220909j:image
f:id:makoto1410:20200527215230j:image
f:id:makoto1410:20200527215234j:image
f:id:makoto1410:20200527215257j:image
f:id:makoto1410:20200527215248j:image
f:id:makoto1410:20200527215244j:image

f:id:makoto1410:20200527220843j:image
f:id:makoto1410:20200527215253j:image

 

 

 

 

 

城の崎にて、注釈・城の崎にて、城崎にかえる、城崎裁判(本と温泉)

f:id:makoto1410:20200527142447j:image

 

緊急事態宣言下のゴールデンウィーク、大阪に住んでいる彼女が本を読みたいと言うので何冊かピックアップして送ると、お返しに!と本を送り返してくれた。

レターパック開封してみると、なにやら本以外のものも入っている…と思ったが、よく見ると城崎の出版レーベル「本と温泉」が出している”温泉文学”だ。

 

 

「城の崎にて」は国語の教科書で読んで以来だったけど、こんなに短かったのか。カリエス、フェータル、ヤモリ・・・という単語をみると、藁半紙に印刷された中間試験を思い出す。

国語の先生がどういう解説をしていたのかは忘れてしまったけど、「注釈」を読んでみると、あー先生もそういうこと言ってたような…ということが結構ある。当時はとにかく退屈に思っていたがもう少し真面目に聞くべきだったのかもと反省した。

 

湊かなえ万城目学による短編もおもしろい。

直近でエッセイばかり読んでいたせいで勝手に随筆かと思い込んでいて、特に「城崎裁判」はしっかり万城目ワールドになっていくので混乱して笑ってしまった。

 

もう何年もカニ食ってない気がする。

今年の冬は温泉旅行にいこう。

 

 

books-onsen.com

 

僕の人生には事件が起きない(岩井勇気)

 

僕の人生には事件が起きない

僕の人生には事件が起きない

 

 

 

エピソードのほとんどは「ハライチのターン!」のトークゾーンで聴いたことがあるもので、ラジオのトーンを思い出しながら読んだ。

 

社会の”ふつう”に対して不機嫌に斬り込んでいく姿勢は、オードリー若林の「社会人大学人見知り学部卒業見込」に結構近いものがある。

若林はそういう姿勢から「ナナメの夕暮れ」に到達したわけだけど、岩井もしばらくすると脱ナナメの方に向かうんだろうか。

 

 

 

 

完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込 (角川文庫)
 
ナナメの夕暮れ

ナナメの夕暮れ