地元のデカい公園を歩いていると、ベンチで将棋を指しているジイさん連中を発見した。
対局中がひと組と、パチパチと駒を空打ちして暇そうにしているのがひとり。
実は2年前に将棋を始めて以来、公園の野良対局に参加するのが密かな夢だったのだ。
見つけてしまったからには、1局お願いしたい。
勇気を出して、暇そうにしているジイさんに「1局どうですか」と声を掛けてみたら、
「おお、やろか」と快く引き受けてくれた。
アプリ(将棋ウォーズ)では毎日対局していても、実際に盤を挟んだ相手と向かい合うのは初めてだ。
若干緊張しながらプラスチックの駒を並べる。
「学生さんか?いくつ?」
「27です」
「えらい、わこう(若く)見えるなあ」
「いやそんなことないですよ。いつもここでやってるんですか?」
「うん、年やさかい、仕事もしてなくて暇やしな」
ベンチの脇には将棋盤を収納するスペースまで作っており、連日ここに集まっている様子。
ポツポツと話をしながら、序盤は定跡どおりサクサク進んだ。
戦型は先手のジイちゃんが右四間飛車(めちゃ攻撃的な作戦)、後手のわたしが四間飛車の対抗形。
「いやわからんな」
「これは受けなしゃあないな」
「銀が浮いてるがな」
中盤のねじり合いの途中、わずかに優勢だと思った局面もあったが、最終的にはガッチリ固められた先手玉の急所がわからないうちに、いつのまにか寄せられてしまった。
「いや強いですね、棋力どれくらいですか」
「普段は初段用のソフトと指して五分やな」
「それは強いわ、ぼく1級やし香車くらい落としてもらわな」
「いや、平手でもう一回や」
ハンデくれへんのかい、と思いつつ先後を入れ替えて2戦目。またも右四間飛車対四間飛車。今度は仕掛けられる前に工夫したつもりだったが、なにか計算を間違えたようで中盤からあっさり敗勢に。いちおう寄せられるところまで指して投了。
「いや強い」
「ふふ、またおいで」
「リベンジしに来ますわ」
初対面のおじいさんと共通の言語を持ってコミュニケーションした感じがして気持ちよかった。
「棋は対話なり」と言うけども、対局を通してたしかに相手の性格を感じ取ったような気がする。とにかく一点突破な感じがするおじいちゃん。
人の内面は目に見えないが、こうやっていろんな媒体を通すことでその一部がわかる。そういう瞬間が好きだ。
他には文章とか、音楽のアンサンブルでもわかる。きっとスポーツとかでもそうなんじゃないかと思う。趣味を増やすと、そういうチャンネルが増える。
とはいえ、勝負に負けたことは大変悔しい。
こうやって誰々に勝ちたいからこの戦型を研究しよう、という思いを重ねて強くなるのだろうな。スマホアプリで指しているだけではわからない感覚。
右四間飛車に対応できたら初段になれそうでもある。初段になると名人・竜王直筆の免状がもらえる。藤井聡太直筆の免状。欲しい。
ジジイ、いつか絶対たおす!それまで長生きしろよ!