僕は結構熱心なリトルトゥース*1で、若林が書いたエッセイも2冊読んでいたが、キューバ旅行について書かれた本書はなんとなく後回しになっていた。
しかし読んでみると、これまで読んだ2冊に比べても一番好きな1冊だ。
全編に渡って記されているのは、東京やニューヨークで常にリフレインする「やりがいのある仕事をして、手に入れたお金で人生を楽しみましょう!」という言葉から離れることの喜びだ。
「社会人大学人見知り学部 卒業見込」「ナナメの夕暮れ」でも語られている新自由主義への違和感が、社会主義国であるキューバとの対比でより明確になっている。
そしてこの一冊が他の芸人本や旅行エッセイと一線を画しているのは、最終章で突然はじまる家族の話。それまでと違ったトーンのなかで、キューバという目的地を選んだ理由が明かされる。
これはラジオでも語られていなかった理由だ。出版当時、冗談めいた口調で「あまり知られたくないんだけど」「イジられたくない」と言っていたけど、こういうパーソナルな部分への言及があったからなのか。
そして若林がキューバで気づいたことは、コロナ禍で何でもリモートになってしまうこの時代に読むとハッとさせられることだった。
本心は液晶パネルの中の言葉や文字には表れない。
アメフトの話や、声や顔に宿る。
だから、人は会って話した方が絶対にいいんだ。
綴られているキューバの風景や雰囲気からは、去年行ったモンゴルを思い出す。新自由主義から遠く、広告が少なくて、仕事以外の親切を感じる国。そういえば、若林はモンゴルでも一人旅をしていた。
自分がモンゴルで良いなと思ったのも、まさしくそういった部分だ。キューバもきっと最高なのだろう。おれもビーチでシガーをくわえながら、モヒートを飲んで陽気に踊ってみたい。
*1:ラジオ「オードリーのオールナイトニッポン」を聴いているファン