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踊る!ディスコ室町のギター

いい日に生きて、あの感じになろうね(配信ライブ「LIVEWIRE」/ 中村佳穂)

 

今となっては思い出すだけでも一苦労だが、遠い昔、人々は生演奏の音楽で公演を行い、大勢の観客がそれを見て楽しんでいた。

 

と、仰々しく書いてみても全然冗談に聞こえないくらいには変わってしまった音楽業界だが、新型ウイルスが世の中を変えてしまう直前、僕が最後に生で見たコンサートのひとつが中村佳穂のサンケイホール公演だった。

 

19歳のときに知り合ってから何度となく見てきた中村佳穂のライブだが、毎回びっくりするような仕掛けがある。

それは新しい曲だったり、一緒に演奏するメンバーだったり、アレンジだったりするのだけど、とにかく何度みても新鮮に驚かされてしまう。同世代のバンドマン*1としては、圧倒されすぎてちょっと落ち込んでしまうくらいだ。

 

 

そして、コロナ禍の配信ライブもやっぱりすごかった。

ライブ冒頭での語り、「頭のなかにあるものは 見せなきゃ誰もわからない」と言っていたけど、本当に中村佳穂のイメージを見せてもらったようだ。

全てはここから始まる

頭のなかにあるものは ちゃんと見せなきゃ

誰もわからない なんて

思ったから ピアノを弾いたっけな

 

語りのあと、「口うつしロマンス」「きっとね!」と続く。

いつも通りにガシガシと弾くピアノだけど、手元をこんな間近で見られるのは配信ならではだな。アップライトの鏡面に映る鍵盤と10本の指が波のよう。

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この人はよく膝を立ててピアノを弾いている

 

 

「Rukakan Town」「SHE'S GONE」に続いて、「シャロン」。この曲は久しぶりに聴いた。

知り合った頃から歌っていた曲で、最初の自主制作盤に入っていた曲だ。

この曲を歌うとき、いつも和やかな表情がさらに優しくなるような気がしている。配信でもそれは変わらなかった。

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優しい2曲と対照的だったのが「You may they」。

それまでと打って変わって、強いタッチのピアノと息切れするほどの早口で捲し立てる。演奏後、疲れた!と漏らすほど。笑

何度も繰り返される「いい日に生きて、あの感じになろうね」という歌詞が頭に響く。

そうか、いい日に生きないといけないんだった!と思い出した。

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全部フォルテ!

 

 

ここまでも十分良かったが、今回のライブの仕掛けはこのあとに用意されていた。

冒頭と同じように語りが入って、ここからが第二部の始まりということか。

音楽というものは 音楽というものは

自分から寄っていかなければ 届かないもの

音楽というものは 音楽というものは すべては

好きになるのも一苦労 嫌いになるのも一苦労

変わらないでいる価値 変わっていく価値 

価値観は押しつけないで 勝ち方にピンと来たいのさ

 

 

観葉植物の葉越し、おもむろにイヤホンをつけると、ストリングスが鳴り始める。

あれ、一人じゃなかったのか?と混乱しているうちにドラムやギターが入ってきて、完全にバンドサウンドに。

キメやユニゾンを合わせるときの楽しそうな感じ、バンドのアンサンブルはこうでなくては!

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突然のバンドサウンドがいったんブレイクすると、今度はピアノを離れてハンドマイクで動き回る。

このあたりから映像に不思議なオブジェクトが登場して、現実とフィクションの境目があいまいだ。

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西田修大のガットギターに乗せられているうち、演奏はずいずい進んでついにエンディングへ。

特に後半は演奏や映像の展開が読めず、ドキドキしているうちに終わってしまった。

 

 

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Love You! とのことです

 

ワンカットで一度も途切れない映像は、長いミュージックビデオを見ているようで、しかし同時に予測できないワクワク感はまさしくライブのそれだった。不思議な映像体験だ。

 

思えば2月に見た公演のタイトルは「うたのげんざいち」だったが、今回の配信ライブでも、その現在地をビンビンに感じられて嬉しかった。

  

小さいライブハウスで一緒に演奏していた頃から、佳穂さんの持っている魅力と、人を惹きつける引力は変わらないように思う。

こんなすごい映像を世に出したら、またその引力が人を呼んで、もっとすごいことになってしまうのだろう。

 

いつもは圧倒的すぎてちょっと凹むくらいの気持ちになるけど、今日は終始、そのすごさが嬉しかった。

 

・・・・・・・

 

普通だったら、こういう感想とかライブレポートというものを読んでみてすごく良さそうに思っても、終わったライブを見にいくことはできない。だが、今回は配信ライブだ。

9月22日(火)までチケット購入・視聴が可能とのことなので、まだ見ていない人は、ぜひその目で目撃してください。

筆舌に尽くしがたいとはまさにこのことで、ひっくり返るくらいすごい映像なので絶対見た方がいいです。

 

 

 

 

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「小さいライブハウスで一緒に演奏していた」頃。今はなきVOXhall…!

 

 

*1:というとおこがましいのですが

つつみ込むように・・・(MISIA)に72回登場するビブラスラップを聴こう

MISIAの大名曲、「つつみ込むように・・・」。

みなさんご存知でしょうか。1998年発売のヒット曲で、2018年末の紅白歌合戦でも紅組のトリ前で披露され、年末の大団円を感じさせてくれたあの曲です。

 

僕も好きでよく聴いていますが、1つだけ、気になってしょうがないことがあります。

 

それは、ビブラスラップが多用されまくっていること。

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これです

なんとなく知っている人も多いかと思います。

叩くとカ〜〜ンと、ブルブル震えながら独特の音がするアレです。

 

もちろんJ-popの曲にもよく登場するんですが、だいたいはパーカッション(打楽器)のひとつとして、要所要所で鳴らされます。

サブちゃんの「与作」でも鳴ってますね。

 

 

しかし、「つつみ込むように・・・」では、5分51秒の曲のなかに72回もビブラスラップが登場します。

ちょっと尋常ではない数です。

これに気づいてからは、気になりすぎて曲が頭に入ってこないようなときもありました。

 

どこに登場しているか、一緒に聴いてみましょう。

(以下、シングルバージョンより書き起こしています)

(注:できればYouTubeのMVでなく、Apple MusicやSpotify推奨です!理由は後述) 

・・・・・・

 

◯イントロ(0:00〜)12回

★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

★  ★ ★★ 

 

のっけからブチアゲ街道を邁進するイントロ。

ホイッスルボイスにも注目が集まりますが、実はなんとこの部分だけで12回もビブラスラップが登場しています。

なお、曲のスタートから7秒目までで8回も登場しており、開始早々いきなりの瞬間最高ビブラスラップ(1.14回/秒)を記録。度肝を抜かれます。

 

 

◯1Aメロ(0:38〜2回

雨上がりの道を カサさして歩いた

水鏡にうつそう 幼い子供みたいに

Aメロでは控えめに2回。

雨は上がっているのに傘をさしているんですね。恋人とアイアイ傘でもしているんでしょうか。

お気づきかと思いますが、歌詞中の★はビブラスラップが鳴っている部分です。

 

 

◯1Bメロ(1:02〜)9回

いつからか大人ぶっていた 毎日に慣れてしまって

ただ素直に 感じあえること

遠ざけ 追いかけ 迷い続けるのさ

★  ★  ★  ★

徐々にビブラスラップの頻度が上がっていきます。

最後のキメにはパンが振られており、左右の耳にブチ込まれます。サビに向けてテンションも最高潮。 

 

 

◯1サビ(1:28〜)5回

恋人と呼びあえる時間の中で

特別な言葉をいくつ話そう

夢に花 花に風 君には愛を そして孤独を

包み込むよう

曲のテンションは最高潮に達していますが、以外にサビのビブラスラップは音量小さめです。 

コロナが明けたら、クラブでこれ聴いてブチ上がりたい。

 

 

◯2Aメロ(1:58〜)2回

指からめかわした あの日の約束

今も心の中 カギかけて温めたいね

2番のAメロの前半だけ、ボーカルに薄くディレイがかかっています*1。甘い記憶を思い出している最中の浮遊感を感じさせるよう。

ビブラスラップはディレイもリバーブもかかっていないドライなサウンドです。

 

 

◯2Bメロ(2:21〜)9回

いつしか大人の恋に 臆病になってしまって

出会うたび さよなら来ること

考えて 怖がって 逃げ続けてるのさ

★  ★ ★ ★

やっぱりサビ前に左右からビブラスラップをキメられると、どうしてもテンションはブチ上がってしまいます。 

なお、YouTubeのMVではステレオ処理がうまくいっていないのか、左右から迫ってくるビブラスラップが感じられません。なのでApple MusicやSpotifyをオススメした次第です。

 

 

◯2サビ(2:49〜)5回

誰も皆 満たされぬ時代の中で

特別な出会いがいくつあるだろう

時に羽 空に青 僕に勇気を そして命★を★

感じるように

1番と同じくビブラスラップは5回。

「誰も皆満たされぬ時代」ってすごい歌詞ですね。最高です。

「感じるように」と歌い上げる裏で、それまでモリっと丸い音で弾いていたベースがバチバチと鳴らすスラップにもシビレる!

 

 

◯サックスソロ(3:19〜)4回

★  ★ ★★ 

情熱的なサックスソロのバックにも、しっかりビブラスラップ。 

 

 

◯落ちメロ(3:42〜)11回

明日が見えなくて 一人で過ごせないよ

もがくほど 心焦るけど

音もなく 朝が来て 今日がまた始まる

 

君を守りたい

★ ★ ★ ★

さあやってきました。やはりビブラスラップには、サビ前の盛り上がりを演出する役割があるようです。11回。目が覚めるようです。

君を守りたい!

 

 

◯大サビ(4:19〜)4回

恋人と呼びあえる時間の中で

特別な言葉をいくつ話そう

夢に花 花に風 君には愛を そして明日

包み込むように

もうここまで来るとビブラスラップを数えるより、MISIA大先生の歌声に身を任せたくなりますね。

しかし気を保って数えました。4回です。

 

 

◯アウトロ(4:43〜)9回

★  ★ ★★

★  ★ ★★

★(フェードアウト) 

アウトロにもしっかり9回登場し、カウントを伸ばしていきます。

3まわし目からフェードアウトに入っていきますが、アタマの1回はハッキリと聞き取れるのでカウントしました。72回目のビブラスラップが入り、静かに曲は終わっていきます。

 

・・・・・・

 

「つつみ込むように・・・」、最初はビブラスラップを数えていただけだったんですが、聴けば聴くほどいい曲すぎて震えます。

 

しかし、なぜこんなにもビブラスラップが入っているのでしょうか。

一般的な曲ではクラッシュシンバルやスプラッシュシンバルが入っていそうな箇所に、ことごとくビブラスラップが登場するので驚きます。

カップリング曲(「Never gonna cry! 」)や、あとに発売されたシングル(「陽の当たる場所」「BELIEVE」)でもこんなアレンジはされていません。

 

ただ、珍しいアレンジであることは確かですが、素晴らしいアレンジであることもまた確かです。

リズムマシンのようなドラムの音色と生音のビブラスラップが絶妙に溶け合い、お互いを引き立てていく様は発明とも言えるでしょう。やっぱり大名曲です。

 

 

他にビブラスラップが多用されまくっている曲がありましたらぜひ教えてください。

 

 

ちなみにWikipediaを見て知ったんですが、ミュージックビデオには、バックダンサーとしてあのMAKIDAIさんが参加されていたそうですよ。

 

 

 

ちなみに②、さかいゆう氏のカバーバージョンでも、ビブラスラップの挿入が踏襲されています(51回)。

 

 

 

おれもビブラスラップを入れまくった曲つくってみたい。 

 

 

 

つつみ込むように・・・

つつみ込むように・・・

  • 発売日: 2014/04/02
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

 

Pearl パールビブラスラップ・ウッド PB-VSW

Pearl パールビブラスラップ・ウッド PB-VSW

  • メディア: エレクトロニクス
 

 

*1:正確には1番のAメロもディレイがかかっていますが、ディレイタイムが違いますね

いろんなものが一気に届くとそれは祭り

金曜日だ。

仕事はそこそこに切り上げて帰路につくと、ドシャ降りのゲリラ豪雨に遭遇する。

不運だな…と思いながら走って帰り、びしょ濡れの手でポストを開けると何やらレターパックがほうりこまれていた。

 

差出人「デイリーポータルZ 編集部」とある。濡れたまま封を開けると、先々月に受賞した新人賞の副賞、「ガリTシャツ」であった。

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今回の新人賞は「おもしろがり」をテーマにしていたので、「がり」の部分を取ってガリ(寿司といっしょに食べるやつ)が副賞に設定されていた。

僕は最優秀賞をいただいたので、副賞がガリTシャツだ。

 

よく見るとメッシュ素材のTシャツである(なんで??)。シャワーを浴びてから着替えると、すべすべで気持ちいい。

 

 

ひとりでワイワイと写真を撮ったりしてみると、ピンポンとチャイムが鳴って宅急便が届いた。

ガリTシャツのままヤマト運輸のお兄さんから受け取ると、「山形特産」と記載された箱だ。

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桃だった。

モンゴル武者修行でお世話になった伊藤洋志さんが遊撃農家*1という活動をされていて、注文締め切りのギリギリになって心が動いたので思い切って購入したのだった。

いきなり桃が2キロ届くとこれはもう祭りだな。

 

今日はミスタードーナツでトートバッグも買えた*2し、アマゾンで注文していたマウスも届いて、しかも開封するとやたら光っている。

 

 

なにやらいろんなものが一気に手に入って*3処理が追いつかず、ひとりワンルームのなかでオロオロしている。

よい週末である。

 

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*1:繁忙期だけ知り合いの農家を手伝っているそうです

*2:4月に発売になったときは売り切れで買えなかった

*3:宅急便とAmazonは日時指定してたので知ってたけど

8月3日 ニンジャはいましたか??

◯8月3日

朝からベトナム人エンジニアと一緒に車で移動する用事があった。

二条城を通りかかったので「ここには昔サムライがいたんですよ」と教えてあげると、「本当ですか???」と興奮している。

「ニンジャもいましたか???」「影分身のジュツ!」「口寄せのジュツ!!」とどんどん盛り上がりが加速していて、さてはナルトのファンだな。

 

半日ふたりで行動して車内で少し話をしただけだったが、同い年の彼は素直で優しい。

ナルトの話をするときは子供っぽいが、仕事や家族の話をするときには自分より随分大人びているように見えた。

 

別になんということではないが、彼のおかげで久しぶりに朗らかな気持ちで月曜を終えることができたのでなんとなく覚えておきたくて。

 

・・・・・・・

 

この頃は釣りに(2回も)行ったり配信ライブがあったりバンドの練習でスタジオに入ったりと色々していたのだけど、なんとなくブログには書けずにいた。

充実して人と話したりしていると、わざわざブログに書かなくても消化されるんだな。月に20本も記事を投稿していた5月はやっぱり異常だったということだ。

 

路上観察は子供の目(路上観察学入門 / 赤瀬川原平・藤森照信・南伸坊 編)

京都のギリギリ駐車コレクションという記事でエントリーしていたデイリーポータルZ新人賞で、なんと記事部門の最優秀賞をいただいた。

dailyportalz.jp

 

新人賞の存在を知ったとき、ネタとしてすぐに思いついたのが京都の駐車事情について。しかしアイデアはあるものの、こういう記事を書くのは初めてだ。そこで、デイリーポータルZの過去記事を参考にして書くことにしたのだった。

 

そうして参考になりそうな記事を探しているなかで知ったのが、世の中には「路上観察」というジャンルが存在するということ。

デイリーでは、三土たつおさんの記事や「片手袋」についての記事が印象深い。

dailyportalz.jp

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そしてやっぱり「ギリギリ駐車」の記事も、路上観察系に属するらしい。デイリー編集長の林さんにもそうコメントをいただいたので間違いない。しかも王道とのことだ(ちなみにこのコメント、発表されて以来ほぼ毎日確認しては嬉しさを噛み締めています)。

王道の路上観察記事。車はただ停まっているだけなんですが、分類と「補助なしのストロングスタイル」などの形容詞でこの面白さを翻訳できています。写真をきちんと正面、横から撮っていることも大事です。 (林)

デイリーポータルZ新人賞2020 受賞記事へのコメントより)

 

改めて考えてみると、僕は道を歩くときはけっこうキョロキョロと周りを観察しているような気がする。あまり意識することはないものの、むかしからよく物を拾ったりするし*1

 

路上観察、Web記事の世界では王道にもなっているように、魅力のある世界なんだろう。せっかく最優秀賞*2をいただいたことだし、この機会に路上観察に向き合ってみたい。

 

 

路上観察学入門 (ちくま文庫)

路上観察学入門 (ちくま文庫)

  • 発売日: 1993/12/01
  • メディア: 文庫
 

 

前置きが長くなったが、そうして手に取ったのが本書。

文庫化されているが最初に刊行されたのは1986年だ。 読んでみると、たとえばマンホールの蓋を見比べたり公園のくずかごを観察したりする行為はすでに体系立てられている。歴史のある営みだったのか。

 

以前のエントリでも似たようなことを書いたけど、やっぱりこのような路上観察者のまなざしというのは、視界の解像度を高める嬉しさみたいなものが根底にあるようだ。

なんでもコレクターのように集めて比べてみると違いが見えてくるし、それに気づくと、文字通り世界は違って見える。 

このような感覚が、赤瀬川と藤森の対談では「子供の目」と表現されている。

赤瀬川 :

(子供に児童画教室で石膏デッサンをさせると)一人の子供が石膏像のすぐそばに来てじいっと見ながら描いている。でだんだん顔が出来上がってきたのを見ると、顔に直線が縦横に入ってるの。(笑)それがじつは石膏像を作るときの継ぎ目ね、あるでしょう。あれがたしかにすぐそばで見ると目立つんだよ。じつは僕もはじめて石膏デッサンをするときあれを描くのかと思って先輩のを見たら、あんな表面上の線は無視してデッサンをしているのね。ああそういうものかと思って、僕はさすがに描きはしなかったけど、子供はもっと直接だから、見たまま描いちゃうんだ。あの線が本当はこの世の中にあるわけよね。でも僕らはそれを無視してやる。

 

藤森 : 

だけど子供の目というのはそれを見つけちゃうわけでしょう。だから路上観察は子供の目かなというふうに感じる。僕らは神にもなれないし宇宙人にもなれないけど少年時代には戻れるんだ

路上観察学入門 131~132P、太字は引用者)

 

石膏デッサンでなくても、未就学児の似顔絵にはほとんど必ず鼻筋が入っているように、たしかに「子供の目」には思い当たる節がある。

路上観察は「そういうもの」として抽象化していた世界を再び分解する役割があったのか、と膝を打った。

 

 

 

また、図らずも「超芸術トマソン」について詳しい記述と遭遇して妙な繋がりを感じる。最近 in the blue shirtことアリムラさんたちのトマソンスタジオという共同運営スタジオの企画をよく見ていたのだ。

企画自体を楽しんでいて名称まで想い及んでいなかったが、ブログでちゃんと言及されている(めっちゃいい名前ですね)。

しばらく名無しの状態が続いた弊スタジオ、赤瀬川原平らの超芸術トマソンから概念を拝借し、トマソンスタジオと名付けた。なんとなく気が抜けているが、クリエイティブへの姿勢みたいなものはしっかりと感じられるので、なかなかに気に入っている。

無題 - in the blue shirt

 

 

 

 

30年以上前の本なので現代とは倫理観がちょっと違うところもあって(団地の各部屋の様子をのぞいて家主の行動を記録したり、女子高生の制服をウォッチしたり…)、今読むとオッと身構える部分もある。

しかしもちろんギョッとしているばかりではなく、考古学ならぬ”考現学”として周りを観察する姿勢がこの辺から始まったのか!と思うと、なにやら不思議な感慨がある読後感だった。

 

別にマンホールのフタを見分けられたから何か得するというわけではないけど、得した気分くらいにはなれる。

それでなおかつ少年の心に戻れるのなら、それってめっちゃ楽しいことだな。

 

 

 

(おまけ)

ギリギリ駐車の記事を書いてからも、引き続き見つけては写真を撮っています。

最近は珍しい”シャッターがギリギリ型”を発見しました。

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普段は隠れているのでレア度を感じさせられる

 

 

 

 

路上観察学入門 (ちくま文庫)

路上観察学入門 (ちくま文庫)

  • 発売日: 1993/12/01
  • メディア: 文庫
 
街角図鑑

街角図鑑

  • 作者:三土 たつお
  • 発売日: 2016/04/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

songdelay.hatenablog.com

songdelay.hatenablog.com

 

 

 

*1:余談なんですが、小学生の頃はよく携帯ストラップを拾いました。最近見ないなと思ったんですが、そういえばストラップってもう全然付けないですね??

*2:ここだけ毎度ボールドにしていてすみません、嬉しいんです

健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて(熊代亨)

 

健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて

健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて

  • 作者:熊代 亨
  • 発売日: 2020/06/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

本書では、高度な秩序が行き届いて”清潔になった”街として東京が語られているが、この話題から僕が連想するのは大阪・天王寺の街だ。

現在は再開発により、あべのハルカスやキューズモールが象徴するような”キレイな”街並みが整備されている。が、天王寺エリアがあんなにピカピカになったのはつい最近のことである。

 

・・・・・・・

 

今年の2月、はてなにこのブログを開設してみて、意識的に他の人のブログをチェックする習慣がついた。

”シロクマ先生”のブログも、そのときに読み始めたもののひとつだ。YouTuberの軽躁やイライラした人の居場所についてのエントリーには、僕なりに影響を受けた。

p-shirokuma.hatenadiary.com

p-shirokuma.hatenadiary.com

 

 

 

そんなシロクマ先生の新著が「健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて」。ブログで公開されてた第一章を読めば、これは今読むべきものだ、と直感するのに十分だった。

p-shirokuma.hatenadiary.com

 

本書は、帯文にもあるようにメンタルヘルス・健康・少子化・清潔・空間設計・コミュニケーションを軸に、令和時代の「生きづらさ」を読み解く。

第一章「快適な社会の新たな不自由」では、秩序が行き届いた”美しい都市”において、その秩序から漏れてしまう人々の居場所のなさが指摘されている。

代表事例として挙げられているのは東京の街だが、僕が思い出すのは大阪・天王寺の街だ。

 

 

子供のころ(約20年前だ)、父母に手を引かれて行った天王寺動物園の周りには青空カラオケ*1の屋台が立ち並んでいた。そこから聞こえてくる法外な爆音には、子供ながらに迫力を感じ取っていたものだった。

カラオケ屋台以外にも、ガード下にはブルーシートで道路を占拠するホームレスのおじさんが何人もいた。そういう場所は母親の手をギュッと握りながら通った記憶がある。

 

この時点では、”そういう場所”に行けば、”そういう人”がいるのは当たり前のことだったのだ。梅田や心斎橋では異質に見られそうな彼らも、あの街の中では当然のように存在していた。

 

しかし高校生の頃、キューズモールがオープンしたあたり(2011年)にはすでに、天王寺は目に見えて綺麗になっていた。ハルカスができたり、「てんしば」が整備されたりして、かつてのカオスが嘘のような場所だ。 

 

 

今でもたまに動物園や新世界に立ち寄るたび、あのブルーシートのおじさんたちのことをふと思い出す。

彼らはどこに行ってしまったのだろうか。本書で指摘されているように、福祉が行き届いた効果も大きいのだろう。でも、そればかりでないように思わずにいられない。 

 

もちろん、ブルーシートのテントに暮らす人がたくさんいたり、カラオケ屋台が林立している街が無条件に良いとは思わない。ただ、”秩序ある空間”が広がったことによって、そこに居られなくなってしまった人たちがいることは確かだ。

 

そして、天王寺が再開発によってカオスを排除していった時期と、大阪でオリンピック誘致の運動*2が行われていた時期が重なるのは、偶然ではないだろう。

これと同じことが、より大規模に東京・そして日本中で起こっていると思いながら本書を読むと、やっぱりしんどいものがある。

 

大阪は幻のオリンピックのために漂白されてしまった。そして今度は東京のオリンピックも幻になりそうで、なにやら皮肉なものだ。

  

・・・・・・・

 

シロクマ先生、本文中で資本主義の親玉としてGoogleFacebookリクルートを並べていたりと、さすが鋭いなと思わされる部分が多かった。

過去の著書も注文したので、引き続き拝読します。

 

「若作りうつ」社会 (講談社現代新書)

「若作りうつ」社会 (講談社現代新書)

 

 

 

 

 

*1:ブルーシートで作られた露店。もちろん防音などという概念はなく、おじさんやおばさんの歌声が街じゅうに響き渡っていた。懐かしくて検索してみると、2003年に強制撤去されたらしい。

 

 

青空カラオケ強制撤去顛末記(人民新聞社)

 

検索トップに出てきたオノマトペ大臣の記事もおもしろかった。

kansaisocal.org

*2:Wikipediaを確認すると、かなり情けない顛末だ

ja.wikipedia.org

いま、将棋がおもしろい

タイトルは嘘で、将棋自体は1000年前から人気のあるボードゲームだ。

藤井聡太七段の活躍による盛り上がり*1に合わせて、僕もにわかに盛り上がっているという話をさせてください。

 

 

たまたま読んだ将棋のニュース記事が面白くて、将棋自体に興味が湧いた。最近よく見る松本博文さんという方の記事、文章がおもしろいのだ。

「藤井七段はすっと香を走ります。王手。その香は、将棋界を駆け上がっていく藤井七段の姿のようでもあります。」

こんなに文化的な輝きのある比喩があるだろうか。しびれる。

 

藤井聡太そんなに強いのかよ、と思って在宅勤務の合間や会社帰りの電車でAbemaTVの中継を見てみると、これがまた面白い。

テレビをザッピングしているときに目にする将棋中継にはおもしろさを見出せずにいたが、アベマの中継ではソフト解析による形勢判断や最善手が表示されている。素人にも楽しめるような演出が凝らされているのだ。

 

劣勢だった藤井七段が起死回生の一手を打つ瞬間なんかは解説陣やコメント欄の盛り上がりを楽しめるし、終盤戦で相手玉を追い込んでいく際には、ソフトが示す最善手を指し続ける精緻な頭脳に(ど素人の僕でさえ)感嘆できる。

 

 

そんなわけですっかり将棋にハマってからは、自分でも指してみたいと思うまでに時間はかからなかった。

早速ネット通販で将棋盤と駒を購入して、本屋へ行き入門書を2冊買った。

 

将棋盤(並寸)

将棋盤(並寸)

  • メディア: おもちゃ&ホビー
 
任天堂 将棋駒 優良押

任天堂 将棋駒 優良押

  • メディア: おもちゃ&ホビー
 

 

入門書の説明文を読みながら自分で駒を動かしてみると、一手一手の狙いや仕掛けがわかるような気がしてめっちゃ楽しい。

実は何年か前にも一度勉強しようと思ったことがあったが、そのときは盤と駒を買わなかったのでイマイチ理解が追いつかないまま飽きてしまったのだった。

 

最近はYouTubeでプロ棋士が初心者講座を公開していたりして、それも理解の助けになっている。

山口恵梨子女流の講座シリーズが始めたばかりの初心者向けに作られていて、めちゃくちゃ参考になる。

 

初心者向けの作戦と言われている原始棒銀四間飛車を覚えてみると、基本的な攻め方や考え方がわかった(ような気がする)。

Wikipediaで戦法の名前を眺めるだけでもおもしろい。なんなんだゴキゲン中飛車って。藤井システムもかっこいいな…

ja.wikipedia.org

 

 

 

1週間ほど勉強してみると、将棋ウォーズ(将棋連盟公認のスマートフォンアプリ)のオンライン対戦でもちょこちょこ勝てるようになってきた。たまに現れる、明らかに適当に指してくるような相手には、ほぼ確実に勝てるくらいの実力だ。

 

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1週間ほどで、10分切れ負け*2では30級→26級に昇級した。

とりあえず年末くらいまで勉強して、5級まで昇級する(将棋連盟に級位の証明書を請求できるのが5級からだそうだ)のを目標にがんばろうと思った。

またすぐ飽きてしまいそうな気もするので、決意も込めてブログ更新。 

 

 

将棋、じっくり見てみるとめっちゃ面白いのでこれ読んだ人は一度AbemaTVの中継をご覧になってみてください。

 

 

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美濃囲いの崩し方を勉強している図、です



*1:先週19日に史上最年少でタイトルを獲得して新棋聖となった。めでたい!

*2:持ち時間10分ずつの対戦